「ジェームズさん?」
大きめのソファなので彼の隣に座る。それでもピクリとも動かない。羊皮紙を覗き込むと文字はかかれておらず、羽根ペンに浸したインクが水たまりのようにしみをつくっているだけだった。
なんとなく、声をかけることもせずただ隣に座っていることにした。
途端、急に彼が立ち上がる。びっくりして変な声が漏れてしまった。
「リリー」
私に気づいてくれたわけではなく、今しがた談話室に入ってきたエバンズさんが目に入ったから立ち上がったんだ。
今更なことだが優先順位の低さにちくりと胸が痛む。
エバンズさんはジェームズさんをちらりと見たあと何も言わず早足で部屋に戻ってしまった。
見るからに落胆してしまったジェームズさんの手を、そっと掴む。
「っ、あ...ベルか、驚かさないでくれよ」
驚くも何も、気づかなかったのはジェームズさんだろう、なんて、私は言わない。
その代わり、ぎゅっと掴む手に力を込める。