++ゆめゆめ口外するな





オリジナルの事務員女の子が出張るし下ネタです




「プロデューサーさんって桜庭さんとどのぐらいの頻度でエッチしてるんですか?」
「ン?!、ゴホッゴホッ」  

 プロデューサーが咽せる。それに動じることなく、瀬尾は桜庭さん淡白そうですよね〜とカルーアミルクを一口煽る。
 315プロダクションというのは身内目で見なくとも仲が良い。時間さえあればメンバーの家で鍋を囲ったり、都合のあう人たちで飲み会を催したり、市民体育館を借りてスポーツをしたり、屋外でトレーニングをしたりと様々なことをしている。今回の飲み会も例に漏れずその催しの中の一つで、プロデューサーと瀬尾は当初参加する予定は無かったものの、時間があるのならと腕を引っ張られて連れてこられたわけだった。
 瀬尾は315プロダクションの栄えあるアルバイト二人目である。現在大学生の瀬尾はテレビ業界を就職先にと志望していることもあり315プロダクションでのアルバイトは神様の思し召しかと思うほどぴったりなのだった。ひっそりと募集がかけられていたアルバイトにまさか実際就けるものとは思っておらず、採用の電話が来たときには小躍りしそうなほどだった。将来の職にも繋がりそうな職種、良い待遇、良い人間関係、それに同性のプロデューサーがまるで妹かと言わんばかりに瀬尾のことを可愛がってくれるということもあればこの職場をホワイトと言わず何というのだろう。とにかく瀬尾はこのアルバイトを大層気に入っていた。

「大丈夫ですか?」
「瀬尾さんがそんなこと聞くから……!」

 瀬尾がプロデューサーの背中をさすりながら、ええ〜ごめんなさあい、と全く悪びれるようでもなく返答する。実際悪びれてなどいない。

「それで、どのくらいエッチしてるんですか?」
「え、ええ……?」
「そっか、口に出すのは恥ずかしいですもんね。じゃあ私膝に人差し指伸ばして手を置いてるから、回数分指を握って? ね? 月に何回してるの?」
「え、ええと……」

 プロデューサーがあたりをきょろきょろと見回した。赤くなっているのはアルコールのせいだけではないだろう。
 プロデューサーは瀬尾の指に控えめに自身の手を絡ませると、いち、に、さん、と握った。

「え〜、意外! 桜庭さん淡泊そうなのに……。ちなみに私は今の彼氏とは10回くらいしてますね」
「瀬尾さんみんなに聞こえるから……!」
「大丈夫ですよ、こんなにうるさいし。みんな聞いてないですって。じゃあ一回につき何回するんですか?」
「本当に言わなきゃだめですか……?」
「だめ」

 耳まで真っ赤である。プロデューサーがぎゅうっと一回手を握る。
 ふんふん、と瀬尾が頷きながら一回が長い?、と尋ねるとプロデューサーがまたぎゅっと手を握った。

「なるほど、ねちっこいと」
「聞こえちゃうってば……!」
「エッチうまいですか?」
「うん……」
「プロデューサーさん一回で何回イきます?」
「これ本当に言わなきゃだめ?」
「だめ」

 うう、と呻きながら彼女が、いち、に、さんと握った。瀬尾がにんまりと笑む。
 世間を賑わせた桜庭薫の婚約発表から早半年。この事務所でなんとなくこの二人怪しくない?、と思い始めそれが確信に変わった時から二人の様子を盆栽を育てるおじいちゃんのような気持ちで見てきた瀬尾である。二人はうまく隠せていたし、実際事務所でも気がついている人は少なかったが、瀬尾にはお見通しだった。二人が隠している以上そういう話は避けた方がいいのだろうと思っていたが、結婚を公表しているのだから堂々と話しても文句は言われまいとこの機会を虎視眈々と狙っていたわけだ。
 何もこの話をSNSで呟こうだとか週刊紙にリークしようとしているわけではない。桜庭が泣いているプロデューサーに肩を貸す場面に遭遇してからというもの瀬尾はこの二人のことが大好きになってしまったのだった。冷静で常に周りを俯瞰して見ているような桜庭とニコニコと笑みを絶やさず穏やかでそれでいて芯の強いプロデューサー。どれだけ境地な立たされようとも挫けない鋼のような意志と胆力を持つ彼女が涙を落とす場面で、普段人間関係で限りなくドライで優しさとは、と疑問符を浮かべたくなるような彼が優しくその肩を抱き留めていたのなら。現実は少女漫画よりドラマチックだ。出勤しようとしていたところでその場面に出くわしてしまい、妙にどぎまぎしたのと邪魔をしてはいけないと思いその場に息を殺して留まった結果、無論遅刻した。
 桜庭の婚姻発表では、相手は一般女性と公表している。そのため気の置けない友人はともかくとして中々のろけることも出来ない環境だろう。そもそもプロデューサーは多忙なのでその友人と話しているかどうかも怪しい。新婚の二人、存分に惚気させたい。ある意味これは瀬尾の優しさなのである。興味も8割方はあるが。

「じゃあじゃあ、するときゴムするんですか? してるときは一回握って? してないときは二回」

 そこまで聞く?!、と言わんばかりにプロデューサーが声にならない悲鳴を上げる。早く早く、と瀬尾が急かすとプロデューサーが一回指を握る。

「君たちは、公衆の面前で何を話しているんだ」
「──いったあい!」

 すっと畳をする足音が微かに聞こえたかと思うと、照明の逆光で表情が見えない桜庭が現れた。間髪いれずにゴン、と言う音が鳴り響く。頭蓋骨にまで響くような心地である。星がチカチカと周囲にいくつか飛び散り意識も一瞬飛んだ。就活用の語学試験のために覚えた英単語が確実にいくつか頭の中から消えた。瀬尾が脳天をさすりながら暴力反対!、と涙のにじんだ目で桜庭を睨んだ。桜庭は意にも介さない様子である。

「プロデューサー、君も瀬尾に聞かれてぽんぽんと話すな」
「はあい」

 ギリギリと桜庭の手が瀬尾の頭を掴んでいる。この細腕のどこにこんな力があるのかと思わんばかりの腕力である。リンゴでも潰せそうだ。
 は、と瀬尾がプロデューサーを見ると、全くダメージがないように思えた。先ほど脳天を拳骨されたときも、思い返せばゴンと盛大な音が鳴ったのは一回だけだ。つまり瀬尾の拳骨の音だけで、プロデューサーにはノーダメージなわけだった。明らかに不平等な暴力である。プロデューサーだって外見上は恥ずかしがってはいたが本当に嫌だったら律儀に答えないだろう。ノリノリで答えていたように思えたのに。

「てかプロデューサー私より軽傷じゃないですか?! 私だけこんな本気で拳骨されたの?! 差別じゃん!」
「当たり前だろう。彼女は僕の妻だ。贔屓もする」
「はあ〜、この夫婦、貴い」








20211025



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