++ギャップ/チリ






※ネタバレあり、ちょっとピンクな会話してる



「チリちゃん、どくどくからのまもるで耐久戦は流石に泣いちゃいそうだったよ」
「堪忍な〜ナマエが嫌いなわけやなくて、そういうバトルスタイルでいつもやらせてもろてて……」

 辛かった……と言葉をこぼす私に、私の後ろから覆い被さるように座るチリちゃんが堪忍してや〜とヨシヨシと頭を撫でる。
 チリちゃんは多忙だ。ポケモンリーグの仕事は事務仕事からチャレンジャーの視察、ジムチャレンジ経路の安全確認、ジムリーダーへの指導等様々ある。それでもチリちゃんは仕事が出来るから仕事の効率化の鬼のように仕事を終わらせている。どんだけ頑張ってもな、仕事はよう終わらすとボスが新しい仕事振ってくんねん……と覇気の無い声で愚痴をこぼしてきたのも記憶に新しい。

「ナマエちゃんチリちゃんのこと嫌いにならんといてえ〜」
「ちょっと嫌いなった」
「いややあ」

 意地悪にそう言うと、エーンと泣き真似をするチリちゃんが私のことをさらに強く抱きしめる。
 多忙を極めるチリちゃんが一緒に暮らそうと提案してきたのは付き合い始めて少し日が経ったくらいのときだった。チリちゃんは「ナマエに一週間も会えんの辛い〜、と泣き言を漏らしながら、うちに住んだらええやん家賃タダやしチリちゃんに毎日会えんで?」、と良いことを思いついたと言わんばかりにごり押ししてきたのである。そんな付き合って一ヶ月やそこらで同棲の提案をされると思わなかったし、家賃がリーグから補助が出ているからという理由であっても衣食住の住を他人に思い切り握られている状態も恐ろしかったので、二週間ほどはウーンと濁していたのだが、「うち本気やで。ナマエは女性と付き合うのはうちが初めてやろ? だから色々難しいことは分かるけど、結婚を前提に一緒に暮らしたいと思うとる」と言われてしまったら為す術も無かった。今は子供が欲しいとは思わないけどもう少し経ったら欲しいと思うかもしれない。でもそうなったときに私たちはどちらかの血が繋がった子供しか授かれないわけだ。婚姻の多様化があれども男性と結婚して子供を産んで、と私自身漠然とした考えを持っていたのもまた事実だった。だけれど彼女は今までお付き合いをしたことがある人の中で一番真摯で真面目な人だ。好きか嫌いかと言われたら自信を持って好きと言える。だから「私もチリちゃんのことが好きだよ。三ヶ月経ったら冷めちゃう気持ちかもしれないけど、チリちゃんは今まで付き合った人の中で一番真摯だし真面目で好ましいと思ってる。私は今まで男性のことが好きで、これからもどうなるか分からない。チリちゃんのことがずっと好きで居られるか分からないけど、今はチリちゃんが一番好き。それでも良いなら一緒に暮らそう」と言った。すると彼女は「ほんなら飽きさせへんように頑張る」と返答した。それから半年は一緒に暮らしているわけだがあの手この手でチリちゃんは新鮮なドキトキを提供してくれるので飽きるなんてことは一切無い。

「黙らんといてや〜、いややもう〜。みんなにしてるやつやから! ナマエだけやないから!」
「チリちゃんリーグに来たみんなにあんなにカッコいい姿見せてるの? 面接してるときも標準語もメガネもカッコよかったし、ボール投げるときもテラスタルするときもカッコよかったし」
「あれはナマエ来とるか普段より2割り増しぐらい顔キリッとさせたけど、ってちゃうちゃう、ナマエ嫉妬? 嫉妬してくれるん?」
「嫉妬じゃない。チリちゃんがカッコよかったから、こんな姿見たら好きになりそうな人たくさん居そうだなって」
「嫉妬やん、それ嫉妬やナマエ、嬉しい〜! ナマエちゃんの嫉妬可愛い〜! みんな見てる〜? ナマエちゃんの嫉妬めっちゃ可愛いで〜、……やっぱあかんあかんこんな可愛いナマエのこと見られたらみんな惚れてまうから隠しとこ」
「私はチリちゃんがこのあとご飯一緒に行きませんかとか好きですって告白されないか心配なんだけど、過去ぜったいあるよね」
「リーグは無いかなあ。道歩いてる時は何回かあったけど」
「そっか……」

 可愛い可愛いとチリちゃんが私の頭を撫でる。私は全然楽しくも何もないわけだが、チリちゃんとしては私が一丁前に嫉妬をして頬をヨクバリスのように膨らましている姿がなんとも言えず良いらしかった。

「でもうちと同じくらい強い人やないと嫌やから断ってるよ今も昔も」
「ふーん」
「許してや〜。ナマエが職場で後輩とご飯一緒行くとか取引先の人と会食とか言われたとき同じような気持ちしてる」
「チリちゃんどこからか聞きつけて泣き落としてだめって言うか二次会の前にお店の前まで迎えくるか一緒に着いてくるよね?」
「ナマエ男女問わず人気やからチリちゃん心配で心配で」

 ナマエが他の人にとられたら嫌やもん、と唇を尖らせてチリちゃんが言う。ウー、とぐりぐりと私の肩に頭を寄せる。チリちゃんの長い髪の毛が肌をくすぐる。

「も〜、ナマエちゃん何したら機嫌直る?」
「……今度おうちでメガネしてリーグに居るときの格好して」
「エッチの時もしたるよ、ナマエちゃんそういうの大好きやもんな?」
「そういうの大好きなのはチリちゃんの方でしょ」

 ジトッとした目で彼女を見上げれば、キスをねだったのかと思ったのか、チリちゃんは私の唇に自身の唇を重ね合わせる。薄い形の良い唇が離れて、それでもなお私の目が痛々しかったのか、あれ違った?と素っ頓狂な声を上げた。チリちゃんがキスしたかっただけでしょ、と言うと、バレた?と反省も何もしていない声を上げる。

「実はメガネ持ってきたから今日できるよ」
「チリちゃんがしたいだけじゃん」
「そ、うちがしたいだけ」
「私は仕事中のチリちゃんをじっくり眺めてドキドキしたいだけなのに……」
「仕事中のチリちゃんなんていつでも見れるやん」
「仕事中にチリちゃんのことばっかり見てるわけにはいかないからね?」
「でも仕事中の格好して家にいるだけより、仕事中の格好でエッチなことしてくるチリちゃんの方が総合的に良いやろ?」
「うーん……? んー……?」
「ナマエちゃんが嫌や言うても気持ちいいところ触ってあげられるよ? 唇がふやふやになるまでキスだって出来るし奥もようさん突いてあげられるし」
「……それいつもと変わらないよね?」
「バレたか」

 チリちゃんの手が早速服の中をまさぐってきたので、細いその手首を掴んで抵抗する。
 ポケモンバトルの最後の一匹はその人の人となりをよく表すと言ったものだが、本当にその通りだと思う。彼女の最後の一匹と対戦したときに、チリちゃんの普段のねちっこさはこういうことかと妙に納得した。

「ナマエ、うちの最後の一匹と戦ってるときちょっとエッチなこと思ったやろ?」
「……」
「ナマエの目、ちょっと熱籠もっててん。帰ったら抱くって思ったもん」

 沈黙は肯定の証って言うよ、とチリちゃんが痛いところをついてくる。手のひら側からがっちりと掴んだチリちゃんの手首、非力な私の手をふりほどくなんて簡単なはずなのにそれを甘んじて受け入れているのは、私からチリちゃんを求めるというシチュエーションが彼女が好きだからだ。私の手の甲をチリちゃんの細くて長い指がくすぐる。それがとてつもなく扇情的で、たまらず見上げると、そんな可愛い顔してナマエちゃんもしたいってこと?、と意地悪に聞いてきたので、くるんと振り向いて背伸びをして彼女の唇めがけて勢い良く自分の唇を重ねる。カチンと前歯同士が当たって、チリちゃんは愛おしげに目を細めてそれすらも受け入れる。チリちゃんの長い舌が歯列をなぞって、私の舌を引きずり出す。目を細めて快楽を受け入れるチリちゃんは、えもいえないぐらい良い。

「いつものチリちゃんとメガネのチリちゃんどっちがええ?」

 噛みつくように彼女が囁く。逆光のせいでチリちゃんの顔がいつもに増して凶悪に見えた。少しだけ沈黙、チリちゃん据え膳できひんよ、と急かして来る。それに腹を据えてメガネのチリちゃんと返答すると、へえと彼女の口角が目に見えてあがった。まずい、と頭の中に警鐘が鳴る。いつも以上に頑張らんと、早速私を組み敷いて、唇の端を舌なめずりしたチリちゃんに期待する私も大概だと思う。





20221205
 


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