++ギャップ2/チリ





※ギャップと繋がってる



「──チリさん、ですよね? 大丈夫、ではないですね」

 ポケモンリーグの関係者で、時折ジムを視察するチリの姿に見覚えがあった。長い黒緑色の髪の毛に切れ長の双眸、通った鼻筋、すらりとしたしなやかな肢体、一度見れば忘れるはずがない美人だ。
 そのチリがフリッジタウンのジム前の階段で行き倒れているのだから否が応でも目を引いてしまう。

「ちょっとしんどくて……」
「顔色悪いですね。自力で立て、……ませんよね」

 チリも一度だけナマエに話しかけたことがある。ジムを巡るトレーナーは多いものだが、ジムチャレンジを完遂出来るトレーナーはごくわずかだ。チリの仕事のひとつに、ジムに挑戦するトレーナーの視察がある。一つ二つのジムバッジであれば取ることが出来る者も多いが四つ五つともなれば一気に難易度が上がる。チャンピオンになる見込みのあるトレーナーは貴重だ。ポケモン勝負に長けていなくとも職には就けるが、長けていればそれだけ職の幅が広がる。例年ジムバッジを集めきった者やチャンピオンになった者について、リーグや警察等の公的な職へのスカウトが行われている。つまり将来自分たちと仕事をする可能性があるというわけだ。このようなわけでナマエはチリが目をかけるトレーナーの一人だった。

「こんなところで座ってても体が冷えてしまいますし、ジムの中に入りませんか」

 体触りますね、と断りを入れて階段の段差に座ったチリの腕を自身の肩に乗せる。そのまま腰に手を回してチリの体を支える。いっせーので立ちましょう、とかけ声をして立ち上がる。一瞬ふらついたがなんとか立つことができた。そのままジムまで歩みを進める。
 息が白い。当たり前だ、あたりは雪が積もっているし、ちらちらと白い綿菓子のような雪が空から降ってくる。その寒空の中でどれほどの時間そうやってうずくまっていたのか、ナマエが触れたチリの体は氷のように冷たかった。
 チリはナマエに比べるとずいぶんと上背があったが、体自体は外見の通り重くない。身長を考慮すれば軽い方だろう。
 ナマエはジムに着くや否や、受付に医務室を貸していただけませんかと尋ねる。受付の女性は、ナマエが支えている人物がチリだと分かると少し驚いたような顔をして、どうぞこちらの扉の奥です、と案内をしてくれた。医務室は暖房が入っていなかったのでひんやりとしていた。ストーブを点けてから、毛布等ご自由に使っていただいて構わないのでゆっくり休んでくださいとのことだった。簡単な救急箱も手渡される。
 ナマエはチリをベッドに座らせると、ストーブをチリの足元に移動させる。ベリベリと自身の背中から貼るカイロをはがして、無いよりマシだと思うのでとチリに握らせた。救急箱の中を物色するが中には絆創膏や消毒液はあったが、肝心の鎮痛剤が無かった。

「チリさん、いつも使ってる鎮痛剤ありますか?」
「……ラッキーが書いてあるピンクのやつ」
「分かりました。買ってきます。ご飯は食べましたか? 食べれますか?」

 スープぐらいなら、とチリが消え入りそうな声で言ったので、分かりましたと返答する。
 薬はラッキーズで、スープであればオーラオーラに確かサイドメニューであったということに算段をつけ、ナマエはいったん外に出る。フリッジタウンはそこまで広くはない。なので10分もあればすぐに必要なものは調達できた。チリが指定した薬と、温かいミネストローネ、薬を飲むためのペットボトルの水、追加のカイロを持って医務室に再度入ると、ベッドに目を瞑って横向きになったチリが居た。

「チリさん、ここに置いておきますね」

 目を瞑ったチリの顔は土の色をしていて生気が無かった。化粧が薄いこともあるのだろう。ナマエも決して軽い方ではないのでその辛さはよく分かる。旅をしている中でも、重い日は最初からホテルに一日に缶詰をするのはざらにあった。
 ありがとう、と消え入るような声が聞こえる。
 いつも気丈に明るく振る舞うチリだ。弱った自分の姿をすすんで他人、ましてや一度二度会っただけの人間に見せたくはないだろうと早々に立ち去ろうとすると、待ってと呼び止められる。
 
「……なんでそんな詳しく分かるん、自分まだ来てへんやろ」

 腹の底からようやっと絞り出したような声だった。相当辛いらしい。
 ナマエは目をぱちくりとさせて、思わず笑ってしまう。その笑い声を聞いたチリが、怪訝そうに目を開いた。バッグの中を開きナマエが自身のトレーナーカードを見せたところでチリの目が丸くなる。

「私、チリさんと同じくらいか少し年上だと思うんですよね」
「2個上……」
「民族性なのかこちらの方には幼く見えるみたいですね」

 外見よりも若く見られることはままにあるが、まさかそこまで若く見られているとは思っていなかった。確かにアカデミーの制服を着ていることもあるし、社会人として働いていたときよりも化粧っ気が薄いからだろうか。身長もこの地方の平均よりかは幾分か低いのも理由の一つだろう。

「……ありがとうございます、貧血なるときは結構あるんですけど、ここまで酷いのは久しぶりで。ナマエさんが声かけてくださって本当に助かりました」
「敬語なんて良いですよ。今まで通りお話いただいて大丈夫です」
「いやケジメなんで。本当ならここでお礼もすべきですが、結構しんどくて。後日お礼させていただきたいのですが、ご連絡先をちょうだいしてもよろしいですか」
「大したことしてないので結構です。何も考えないで今日はゆっくりお休みしましょう」

 カイロも追加で買ってきたので使ってください、とナマエが告げると、チリの長い手がナマエのコートの端を弱く掴んだ。お願いします連絡先教えてください、と弱々しく懇願するように言ったのでナマエも折れた。当たり前のことしただけなのでお気になさらず、と付け足すと、ボトムのポケットから出てきたスマホロトム同士がくっつき合う。







20221207


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