++わかめご飯


 あっ、という驚愕の声で、夕ご飯をテーブルに運ぼうとお盆を持った百々人がビクッと顔を上げた。プロデューサーが百々人の顔を凝視しており、今にもわなわなと震えそうだ。
 自分が知らないうちに顔面に大けがでもしたのか、自身の顔をぺたぺたと触ってみるもそんなことはない。ただひとつふたつ小さなしこりが出来ていたので、最近少し不摂生な生活をしていたかもしれないと反省した。
「──百々人さん、ニキビできてます……」
 どうやらそのことだったらしい。


 一緒に生活をしていて、まさかニキビを作らせてしまうとは思わなかった。プロデューサーは深く反省した。わかめご飯を盛りつけながら、はあ……と大きなため息をついた。今日の夕飯のメインはイカと里芋の煮物で、めかぶの味噌汁と冷やしトマトともろきゅうが並ぶ。
 家事の分担は決まっていない。洗濯や掃除は自分のところは自分でする。リビングやキッチンといった共用部については週に1度掃除をするのでその際にやりたい場所を申告することで落ち着いていた。料理はどちらかがまとめて作ることが大半だが、仕事や学業の忙しさでどちらが比重が高くなるかも決まってくる。ここ二週間ほどは百々人の大学の課題の締め切りが近かったため、プロデューサーが家事を行うことが多かった。
「え〜ショックです……」
「ニキビってストレスが原因なこともあるし、最近コンビニご飯とかファーストフード食べること多かったから……」
「あとお菓子も食べてますよね」
「そ、そうだね……」
 プロデューサーが白い目をしている。それに百々人は痛いところを突かれて少し困った笑みを浮かべている。
 高校生の時もお菓子はよく食べていたが、肌トラブルはほとんど無かった。大学生になって緩やかに体質が変わっているような気がするが、理由はそれだけではないということも薄々感じていた。単に食事の栄養バランスが良くないのである。三ヶ月ほど前よりはだいぶマシになったが、実家と形容して良いのか、そこに居た頃の食事と比較するとよろしくない。何せ以前はお手伝いの人が来ていて栄養バランスのとれた食事を毎食摂っていたからだ。それと比べれば課題に集中してチョコレートや飴を摘まんで三食を疎かにしたり、時間が無いからとコンビニでおにぎりを買ったりしており、そんな食生活が良いわけもないのだ。それに百々人は夜型の生活をしているので生活リズムの乱れも関係しているだろう。
「最近秀さん鋭心さんと一緒に夜にオンラインでゲームしてますよね」
「うるさくしててごめんね……」
「うるさくないので大丈夫です。もちろん息抜きやつき合いも必要なのは分かっていますが、一週間くらいお休みして、ご飯もちゃんと食べてたくさん寝たら治ると思いますよ」
「はあい……」
 体を資本にする仕事だ。だから見た目にも気を遣うべきで、プロデューサーの指摘はごもっともだった。天峰や眉見には後ほど夜のゲームは当分休む旨を伝えなければならない。
 しゅんとしょげた様子の百々人に、プロデューサーも少し言い過ぎたかもしれないと思ってしまった。クラスファーストは結成当初はメンバー間のぎこちなさがあったユニットだ。それが三人でゲームをする仲になったというのなら喜ばしいことであるし、せっかく楽しく遊んでいたものを制限してしまうのも可哀想に感じられてしまった。プロデューサーも学生時代に友人との電話を母親からまだ電話してるの?と言われて止められたことが何度もあった。それと同じことをしているということに気づいてしまい、はっとする。あの頃は良いところなのに、と母親からの声がけで渋々電話を切っていた。あの時の母親も身体を案じてのことだったのかもなあ、と少し懐かしく思った。
「……まるきりやめなくて良いですから、夜遅くまではやめましょう。秀さんも受験生ですし、百々人さんも鋭心さんも大学生になってからお仕事が増えていますから、ほどほどにお願いします」
「はい」
「それでも夜遅くまでしてるような時は、部屋の前から声がけします早く寝てくださいって」
「えー、ちょっとうれしいかも」






20240108



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