++カルーアミルク


 テーブルの上には少しつまめるようなものと、缶チューハイ、炭酸水や牛乳といった割り材、リキュールが数本、日本酒などが並べられている。百々人はそれらを興味津々に見ながら、どれにしようかな、と最初に飲むものを吟味している。





「──百々人さんのお誕生日、もうすぐですね。クラスファーストでご飯行かれたりするんですか?」
「うん。誕生日当日はマユミくんがお仕事があるから、来週お祝いしてくれるみたい」
「お酒飲まれるんです?」
「飲まないよ。うちはアマミネくんが成人した時に三人でお酒飲もうって決めてるから」
「え、なんかかわいい」
 百々人が醤油とみりんと砂糖を合わせたたれをざっとフライパンの縁に回しかける。最初の頃と比べると堂に入った手さばきだ。今日のメインはチキン南蛮で、先ほどは部屋中に胸肉の繊維を断つためダンダンと包丁の背で肉を叩く音が響いていた。
 ピーピー、と炊飯器が白米を炊き終えたぞと音を鳴らした。プロデューサーはグラスに緑茶と日本酒を入れて耐えきれずにちびちびと口に含んでいた。さすがに空きっ腹にアルコールを入れると酔いが回るので、小袋の豆菓子を摘まんでいる。
「ぴぃちゃんご飯食べる?」
「お酒飲んで、白米食べると太るんですよねえ……」
「お酒飲んでご飯食べないって体に良くないと思うんだけど」
「正論だ」
 大人になったら酒を飲まないとやってられない時もある。今日がまさにそういう時だった。
 チキン南蛮に合わせるなら、ビールかハイボールか。たれを絡ませた一口大の鶏肉が皿の上に乗せられていく。その上には卵とマヨネーズ、たまねぎがたっぷり入ったタルタルがスプーン一杯、二杯と乗せられる。何とも背徳的な絵面でごくりと思わずのどが鳴ってしまった。これは糖質が少ないハイボールが良いかもしれない。
「……お酒って美味しいの?」
「えー、んー、…………飲みます?」
「僕まだ二十歳なってないよ」
「百々人さんって結構まじめですよね」
「ぴぃちゃんもしかして二十歳なる前に飲んでた?」
「どうでしょう」
 訝しげな表情をする百々人の目線に気がつかないふりをしながら、キッチンに立つ百々人の後ろにある冷蔵庫までの道筋を考える。炭酸水も氷も全てあちら側にあるので、そのためには百々人をかいくぐらなければならないが、最近の百々人は手厳しいので今日は一杯お酒飲んだでしょ、と言われる可能性も無きにしもあらずだ。だがチキン南蛮でハイボールを飲む口になってしまったので、強行突破したい。
 経路を確認していると、百々人が歯切れが悪そうに話を切りだす。
「……ねえ、僕の誕生日、一緒にお酒飲んでほしい」
「いいですけど、無理に私と過ごさなくても」
「僕が一緒に飲みたいだけ、ぴぃちゃん次の日お休みでしょ?」





 最初は甘いリキュールのカクテルからはどうだろう。目移りする百々人にプロデューサーはそう提案した。
「カルーアミルクはどうです? 私も百々人さんぐらいのとき好きだったな」
「甘い?」
「コーヒー牛乳みたいな味です」
 じゃあそれにする、と百々人が言った。
 カルーアに牛乳を割ってよく混ぜる。からんころんと氷とコップの縁がぶつかって涼しげな音を立てる。まろやかな牛乳と甘いコーヒーのような味をしたリキュールの相性は良く、コーヒー牛乳のような味をしているが、そのアルコール度数は5パーセントほどで決して可愛くはない。ジュースと同じ感覚で飲んで気がついたら潰れていた、という話もよく聞くぐらいのカクテルだ。
 自身用にカルーアミルクをもう一つ用意して、あっ、と思い出したようにメモ帳とペンを手元に置いた。
「なにそれ」
「百々人さんのアルコールの許容量がどれくらいかメモしなきゃって思って。これまでだったら気持ちよく酔えるって覚えておくと後々苦労しませんから」
 最初の頃は気持ち悪くてその場にうずくまったり、吐きそうで吐けなかったりしたこともたくさんあったなあと、ふと思い出す。たくさん失敗をして学ぶのも勉強になるが、失敗しないのが一番良いだろう。
 百々人は注がれたカルーアミルクとプロデューサーを交互に見て、ひきつった表情で言った。もしかして僕、今日潰されるの?





 


20240130


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