++水餃子


「餃子って作るの大変なのに、食べると一瞬なのだけ残念ですよね」
「……ぴぃちゃん、形いびつじゃない?」
「腹に入れば同じです」
 リビングのローテーブルに並べられているのは、丸くひらべったい皮と肉のたね、片栗粉を溶いた水、既に完成した餃子が並んであるバッターだ。春キャベツとにら、長ネギを混ぜ込んだ肉だねをスプーンですくい皮の中に押し込める。プロデューサーが少しいれすぎたかもまあいいか、と独り言を漏らしたが、それに対して少しじゃないよそれ、と百々人がつっこんだ。プロデューサーが作った餃子と百々人が作った餃子を見比べれば一目瞭然だ。プロデューサーが作ったものは、肉だねが入りすぎて餃子のひだが今にも開きそうなのに対し、百々人が作ったものはひだが均一に揃えられている。だがプロデューサーが餃子を包む速さは百々人の2倍はある。
 冷たい風も和らぎ、春の陽気がやっていた。最寄り駅までの道に植えられた桜の木の蕾が膨らんでおり、開花を今か今かと待ちわびている。今週末からさらに暖かくなると言っていたので、開花ももうすぐだろう。事務所のラインでは花見をしようという話が持ちきりだ。フレームの3人が発起人で、花見のごちそう作りに天道や天ヶ瀬、カフェパレードが手を挙げていたので、随分と豪勢な花見になるだろう。
 つい先週、以前仕事をしていた中華ファミレスから、CMをお願いしたいという連絡が入った。クラスファーストの3人にその旨を伝えれば、3人ともCMの出演に前向きだったので、プロデュ―サーは相手方にぜひと快諾したのだった。
それからは百々人はずっと中華の口だったらしい。街中を歩いていると中華料理屋ののぼりや店舗が妙に目につく。だが中華料理の何が食べたいかと言われればよく分からない。今日スーパーへ買い出しに行った際に春キャベツが積み上げられており、百々人はこれだと思った。餃子がお腹いっぱい食べたい。フードプロセッサーで大量の野菜をみじん切りにして肉と調味料とを合わせてたねを仕込んだが、プロデューサーが帰ってくるまでに包む作業が間に合わなかった。テーブルに並べられた皮3パックに、こんもりとボールに盛られた肉だねを見て、一瞬プロデューサーが呆然としていたが腹の底からひとしきり笑ったあとに、私も手伝いますと包む作業をすることになった運びである。
「ふふっ、この馬鹿みたいな量の餃子は面白すぎます」
「だってたくさん食べたくて……」
「分かりますけど、市販の冷凍餃子じゃ足りないの分かりますけど、75個!」
 最初はバットの上に整然と並んでいたものの、大量の餃子の前ではバットの容量も足りず、バットの上に乗せられた餃子の上にラップを敷いて、その上に餃子を重ねている。
「食べきれないときは冷凍庫に入れればいいやって思ったけど、冷凍のお魚あるよね?」
「そうですね。餃子は入らないと思いますが、でも餃子だけ食べるなら私が35個で百々人さんが40個で食べられませんか?」
「僕が40個かあ……」
「育ち盛りなんだからいけますよ」
「もう身長伸びないのに」
 百々人は餃子が食べたい、と息巻いて材料を買ったのはいいものの、ほかのおかずについては考えていなかったので、今日の夕飯は餃子だけである。本場の中国では餃子は主食として扱い、白米と一緒に食べることは無いと聞くので、餃子だけでもいいのではないかとプロデューサーは思っているのだが百々人は違うらしい。餃子を作ることに頭がいっぱいになって副菜を考えることをすっかり忘れており、ショックを受けていた。皮は炭水化物、肉だねはタンパク質と食物繊維が摂れるのだから、とプロデューサーは百々人をなだめた。
 ぱんぱんに中身の詰まった餃子を一つ作り上げ、また次の餃子を作る。餃子づくりは何も考えず集中できるのが良い。双方黙々と作っていると、皮が残り10枚ほどになったところでプロデューサーが席を立った。土鍋とカセットコンロを準備する。ラップごと餃子を移動させて机の上に並べる。どの餃子を焼き餃子にするか、水餃子にするか。百々人が作った餃子の方が形が良いので焼き餃子向きだろう。そうとなればプロデューサーが作ったものは水餃子になるが、いささか不安なところがある。百々人もそのことに気が付いたのか、笑いながら指摘した。
「ぴぃちゃんが作ったの、お湯の中にいれたら中身飛び出るんじゃない?」
「……否定できませんね」
「ぴぃちゃん……」
「水餃子ゆでた後のお湯をスープにしたら美味しいので……。腹に入れば一緒ということで……」



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