++ただ君とあれ/桜庭薫



「かおるくんもっと小さくなって!」
「これ以上どう小さくなれと言うんだ」

 しゃがんで体を最大限折り曲げた桜庭さんはほとほと困ったようにそう答えた。姿勢が校庭で雑草取りをするあの姿勢だ。同じドラマに出演する子役の女の子は、「ぜったい跳べないよ!」と、助走をして桜庭さんの背中に手をついてまた戻って助走をして、を繰り返している。馬跳びが出来ず、桜庭さんに練習相手になって貰っているのだ。
 桜庭さんは意外なことに子供好きなのかもしれない。天道さんとの言い争いを見ていれば、騒がしい子供が周囲にいれば悪態をついていそうに見えるのに。こうやって幼い子供と遊んでいる光景を見れば、嫌だと思っていないことがよくわかる。事務所にいるときも未成年のアイドルからわらわらと集まられる彼なので、そういった優しい気質がにじみ出ているのかもしれない。

「僕では背中が広くて飛びにくいだろう。どうだ、そこのお姉さんにして貰うのは」
「私?!」
「時間はあるだろう」
「ありますけども……」
「かおるくんの事務所のプロデューサーさん?」
「はい。名字名前と言います。よろしくお願いします」
「名前ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん」

 ジャケットを脱ぐと、桜庭さんとが腕を出されたのでそれに甘えて預ける。同じように身を縮こまらせたところで、スタッフの方の「学校のカット始まります〜」という呼びかけがあった。

「出番になっちゃった」
「残念だったな、プロデューサーにはまた後日付き合って貰おう」
「うん、名前ちゃんまたね」

 ばいばい、と朗らかに手を振られる。ツインテールの髪の毛を揺らしながら、ぱたぱたと駆けていく後ろ姿に、私も手を振り返した。
 騒がしかった室内が一気に静かになる。

「子供ほしいな」

 私はすくっと立ち上がる。スラックスの裾に埃などが着いていないかを確認した。

「なるほど」
「でも十月十日自由がきかないのは辛いですね。子宮が取り外しできるようになるか、男性が妊娠できるようになるか」
「……今後の医学の進歩に期待だな」
「あとはあんな風な元気な子供が産まれた場合、遊びにつき合う体力が無い」
「僕は、あんなに活発では無かったが」
「私の遺伝子入りますからねえ」
「じゃじゃ馬になると?」
「可能性としては……」
「君の幼少期の写真で、髪を短くして真っ黒に焼けている写真もあったしな」

 この前一緒に私の実家に行ったときに、桜庭さんがなにやら熱心に見ているなと思ったら、私の幼少期のアルバムを黙々とめくっていたことをふと思い出した。別に昔の私を見ても大して面白く無いだろうにとぽつりとこぼしたら、確かに今の君の方が面白いがと言われた。その後、私の母からこのときはこうで〜と色々教えて貰っていたようで、帰る頃には随分とご満悦そうにしていた。

「まあ、今は手の掛かる子供たちがたくさん居ますからね」
「それは僕たちのことを言っているのか?」
「その子たちが手を離れたら考えてもいいかもしれませんが」
「いつになることやら」




 
お題箱より:桜庭がキッズアイドルと遊んでる(遊ばれてる?)ところみてそろそろ子供ほしい……になりたすぎる
20250429



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