++引力に抗えない/Jupiter




「──あ、名前さんか? 今開けるんでちょっと待っててください!」

 天ヶ瀬さん宛てのファンレターやプレゼントを抱えながらインターフォンを押す。するとはい、と返事があった。私はカメラをじっと見つめて、ちょっとだけ箱を彼に見せるような動作をする。すると彼は私が何目当てに彼の家に来たのかを理解したようだった。
 年の瀬も近くなってきた。普段は事務所に来てくださったときに渡すこういった荷物だが、最近は彼自身がバラエティや歌番組への出演に引っ張りだこだったのと、お渡しする機会が中々無くて、ここまでファンレターやプレゼントを溜めてしまったというわけだった。天ヶ瀬さんには、事前に今日の夕方、私の仕事が一段落着いた頃に届けに向かうと連絡してあった。
 がちゃりとドアが開く。すると彼は段ボール箱のそれに驚いたようで、あわあわとした。何もこの量のものを見るのは初めてではないはずなのに、彼の反応はいつも新鮮である。

「いや名前さん、これ絶対重いやつだろ! 俺持つんで……!」
「そうしていただけると大変助かります……」
「うわっ重っ! もしかして名前さんこれ、車から運んで来た……?」
「はい……腰砕けるかと……」

 玄関先で持っていた段ボール箱を彼に引き渡した。彼はその重さに驚いたようで、一瞬腰を引かせた後、しっかりと持って、玄関脇に置いた。
 玄関にはよく見慣れた、天ヶ瀬さんのものとは違うサイズの異なる靴が二足。あれまさか、と首を傾げると、またまたよく聞き慣れた声が奥から聞こえてくる。

「あれ、冬馬くん−。名前さんの声聞こえるんだけどー?」
「ああ、今来てるからな」

 ひょこりと御手洗さんが開いたドアから顔だけ見せる。御手洗さんはにこりと笑って手を振る。その奥には伊集院さんも居るようだった。

「もしかして三人で忘年会ですか?」
「そうっす、あ、名前さんも食べていくだろ? 今日鍋なんだ」
「それはちょっと申し訳ない気が……」
「俺たちは全然構いませんよ。最近名前さんとお話出来てなかったですし、逆にご一緒したいです」
「お前らそっから出てこいよ……」

 二人とも声が遠いのである。私は笑いながら、御手洗さんの、だってここ暖かいんだもん〜動けないよ〜、という未練たらたらな声を聞く。

「そういうことなんで、俺たち的には大歓迎っす。名前さんこれから仕事なら無理かもしれねえけど……」
「あ、いや、もう今日のお仕事は終わりなので、そこは大丈夫なんです……」
「じゃあ決まりだな。翔太、そこ荷物片付けろよ」
「名前さんも来る? やった!」

 お邪魔します、とパンプスを揃えてお家の中に入る。荷物を届けに何度か来たことはあるけど、中にまで入ったのは初めてだ。天ヶ瀬さんは一人暮らしをしていると聞いたけれど、廊下なんてぴかぴかだし、荷物散らかっていないし、本当に悔しいけれど私よりもずっとしっかりしている。315倍ぐらい。

「名前さんこっち!」
「わあ、こたつ……」
「最近寒くなってきたんで、出したんすよ」

 部屋のドアを閉める。部屋の中も暖かくて、あとぐつぐつと煮える鍋のいいにおいが鼻先まで漂ってくる。キムチ鍋だろうか。テーブルには籠に積まれたみかんや、食べかけのお菓子が置かれている。

「うわ、これ一回入ったら出られないやつでは……」
「いいからいいから入りなよ−」
「皿もう一つ持ってくるな」
「ありがとうございます……」

 ここ、と翔太さんの隣に指定される。失礼します、と足をこたつの中に入れると、もうだめだった。気持ちいい暖かい、今までの疲れ切ってへとへとになった身体に染み渡る。机に寄りかかって、はあ、と息を吐く。

「ちょっとこれ想像以上にやばいんですけども……」
「名前さん−、おねがいみかん剥いてー」
「あ、はい」
「翔太!」
「全然いいですよー、こう、ここまで弟っぽいともう何が何でもやってあげたくなってしまうと言いますか……」
「俺にもお願いします」
「北斗も……!」
「セクシー担当のお願いにも逆らえない……!」
「冬馬くん場所的にやって貰えないからって焼き餅焼くの止めてくれないー?」
「ばっ、ちげえから!」

 テーブルに置いてあったウェットティッシュで入念に手を拭く。そして籠のみかんをまずは一つ。それの薄皮も丁寧に剥く。あーん、と口を開ける御手洗さんの口の中に一房押し当てる。もきゅもきゅと食べて、たぶん甘い味に当たったんだろう。幸せそうに笑みを浮かべる姿が控えめに言って可愛いすぎる。オフショットで写真撮りたいレベルの可愛さ、そんなことを思っていると、名前さん写真撮りたいって顔してんな、という天ヶ瀬さんからの指摘が入ってびくりとする。今ぐらいお仕事のこと忘れてゆっくりしましょう?、伊集院さんが苦笑いしながらそう言う。それにはあい、と私は返事をした。
 名前さん次ちょうだいー?、御手洗さんの甘えた声が本当に可愛い、可愛すぎて語彙力が消える。第二弾を彼の口に放り込みながら、来年もきっと素敵な一年になる、とそう思うのだ。


 




ジュピターと炬燵でいちゃいちゃだらだら
20171231



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