++甘やかし方色々/sideM


柏木翼、天ヶ瀬冬馬、山下次郎、葛之葉雨彦、都築圭、硲道夫、古論クリス、天道輝、牙崎漣


柏木翼
 名前さん、と甘い声で耳の側で話されるとくすぐったくてしょうがない。彼の柔らかな髪の毛が首筋に触れてそれもこそばゆくて、身を捩るけれども、彼の長い手足に阻まれて逃げることが出来ない。ちゅ、と首筋や肩口に触れるだけの口づけを落としながら、彼がふふ、と笑った。

「名前さん、明日お休みですよね」
「そうだねえ」
「ね、名前さん、こっちむいて?」

 どうせされることは分かっている。後ろから抱きしめられて、彼の胸板に寄りかかって上を向けば、ちゅっと啄むようなキスをされる。えへへ、と少し照れたように笑う彼だけれど、可愛らしいのは昼間だけで夜は凶悪な獣みたいになることを私はよく知っている。こういうときだけ年下を装うのはずるい。
 ぎゅう、と腰回りに巻き付いた腕が私を更に閉じ込める。苦しいってば、と声を上げるために上を向けば、それを見越したように彼が口を塞いだ。今度は深いやつ。口の中に舌が這う。彼の舌が口の中をかき混ぜていく度に背筋がぞくぞくする。するりと服の裾から彼の温かい手が入ってきて、服を上に押しのける。こうやって流すのが大得意なのだ彼は。それが癪に障って、彼が押し込んでくる舌をちょっとだけ噛んでやれば、翼くんの緑色の目が少し見開いた。それも束の間のことで、にやりと目を細めて、ん、と甘い声を喉の奥から出しながら、今度は腰回りに手を遣る。欲に濡れた目、アイドルの彼がファンの前では絶対に見せないような、いやらしい顔をしている。





天ヶ瀬冬馬

「……名前さん」
「んー」

 年下の恋人が照れているのが声音から分かる。胸にぎゅうっと抱きつくと、柔軟剤のにおいであったり、温かな体温であったり、意外にがっしりしている筋肉であったりを感じられて大変良い。
 なんかお疲れっすね、電子レンジで温めたおしぼりを目元に押し当てているときに、ひょこりと後ろから現れた彼にそう言われてうんと頷いた。何かします?肩揉むとか、と言われて抱きついていい?、と即答したのがつい先ほどだ。

「あの、誰か来るかもしれないんで」
「やだ」
「やだって……」

 なんか名前さんっぽくないな、と彼が呟く。
 それはそうだ。私は大変疲れているのだ。ぐりぐり、と彼の胸板に頭を押しつける。手がいつの間にか背中に回っている。どうやら彼の方も、誰かが来たりだとか邪魔されたりだとかそういうことを考えるのは止めにしたらしい。

「誰か来たらどうするの?」
「そんなの空気読めない誰かが悪いんすよ」
「わー開き直った」

 ぎゅー、と苦しいぐらいに抱きしめられる。最近私の仕事も忙しいし、冬馬くんの仕事も忙しいしで休みの日が面白いぐらいに重ならないのだ。冬馬くん不足なのは私だけでなく、冬馬くんもまた私不足らしい。今度の休みは、名前さんちに泊まっていい?、それにいいよー、と間延びした声で答える。





山下次郎

「あっつ!」

 パソコンばかり見ていると目が疲れる。眉間をぐりぐりと指で刺激しながら、デスクの端に置いた、1時間ぐらい前に淹れたコーヒーを口に含もうとしたら、予想以上に熱くて思わず声が出る。舌火傷した、と更に眉間にしわが寄る。

「さっき淹れ直したんだけど、そんなに熱かった?」
「ん、え? 全然気が付きませんでした……。ありがとうございます……」
「邪魔しちゃ悪いかと思って。名前ちゃん集中力すごいよね」

 いつの間にか山下さんがいらっしゃる。時計を見れば午後四時だった。もうそんな時間。確か彼は次の撮影まで事務所で待機するというスケジュールである。
 彼はと言えば、最近花粉のせいか鼻がむずむずするんだよね、と外に出るときに着ける眼鏡をそのままに、ソファで本を読んでいたようだった。

「眉間に皺寄せてると、癖になっちゃうよ」
「気を付けます……」
「どうだかねえ」

 山下さんが肩を竦めた。とかいう彼も、実は読み物をしているときに若干しわが寄っていることに気が付いているのだろうか。この調子だと気が付いていないような気もするのだけれど。

「あ、そうだ。さっき撮影現場で貰ったお土産、要る?」
「んー、要る、ません」
「名前ちゃん、どっちかはっきりしなさい」
「食べたい気持ちが先走ったんですけど、そういえば太ったんだったなあ、ということをふっと思い出したんですよ」
「頭を使う作業には糖分必要だから、ここはひとつ仕方が無いって思えば大丈夫」

 いくよ、そおれ、っと、小包みに入ったお菓子を投げられる。それを受け取ると、ナイスキャッチ、と彼がにこっと笑った。そう言えば山下さんも最近お腹周りが〜、とかなんちゃら言っていた気がする。よもや私も道連れにするつもりで、とお礼を言ってからじっと彼を見ると、たははバレた?、との声だ。





葛之葉雨彦
 雨彦さんの家は、こたつの設置期間が長い。私の部屋は狭いし、実家暮らしの時はよく寝落ちをしてしまっていたことを考えてこたつは買わないことを心に決めているのだけど。こうやって彼の家に入り浸っていることを踏まえるとその努力も水の泡のような気がする。
 
「雨彦さん」
「んー?」
「んー、じゃなないんですよ。寝るなら寝室に行って寝ましょうね」
「んー、」

 もうだめだな、私はため息を吐く。こたつで寝落ちすると起きると体がばきばきで辛いと漏らしたのは誰だったか。私も私で彼の長い手足に閉じ込められるような形でこたつに拘束されているので、起きたら体がばきばきになるという運命を彼と一緒に辿ることになるのだ。
 スマートフォンの画面をぽちぽちと触れていると、彼の長い指も参戦してくる。明日は私がお休みだから、明日お仕事があるメンバーに確認の連絡を入れなければならない、とメッセージを送っていたのだ。それが粗方終わり、息を吐き出したところだった。彼に見られて困るものを見ているわけでは無いので別にいいのだけど。

「……妬けるねえ」
「わあ、珍しい」
「俺だって妬くときぐらいあるさ」
「もうちょっと態度で示していただけても良いんですけどね」
「三十過ぎのおじさんから嫉妬されてもうるさいだけだろう?」
「そんなことないですけどね」

 スマートフォンの電源ボタンを押されて画面が真っ暗になる。そしてそのまま画面をぱたんと伏せられて遠くにやられてしまった。まだ全員から返信来てないんですけど、そう言えば、ひと眠りしてからでも良いだろう?、と彼が言う。お腹に腕を回される。





都築圭

「――名前さん、もしかしてよく眠れていないのかな」

 するりと都築さんに目の下を撫でられてびっくりとした。コンシーラーで隠していると思っていたのに、どうやら気が付かれたらしい。

「仕事が忙しい?」
「最近少し夢見が悪くて……」

 大きなライブが間近に迫っている。今のところ大きなトラブルは無く、順調に進んでいる。だけれどこれからトラブルが無いとは限らない。何よりこのライブは、これからの事務所の方針も決まるような大切なイベントなのだ。もちろん準備もしっかりしている。機材も演出もいい方向にまとまっているし、チケットの売り上げも上々だ。未だ何かトラブルがないのが恐ろしいぐらい、順調。だけれどこれが失敗したら、そう思うと緊張で心が休まらない。

「少し眠った方がいいよ。ふらふらしているから」
「でも、」
「疲れていると作業の効率が落ちると、薫さんもよく言っているだろう?」

 ほら、眠ろう、と彼が手を引く。細い指先が私の指を絡めとる。体温は低かった。都築さんは見た目に寄らず、頑固な一面がある。ソファまで手を引かれて、クッションとブランケットを手渡される。

「すみません……。誰か事務所に来たら、仮眠中だと言っていただけると……」
「うん、分かった」
「あと本当に申し訳ないんですけど、30分したら起こしてください……」
「分かったよ」

 子守歌でも歌おうか、ソファの腕に肩を預けて床に座る都築さんが、私の肩を一定のリズムで叩きながら尋ねた。それに少しびっくりして薄眼で彼を見ると、彼にしては珍しくいたずらっぽい表情をしていて、気を利かせて言った冗談なのだと知った。それに少し笑いながら、お願いしますと小さく返すと、彼が困ったように少し唸ってから、聴き馴染みのない綺麗なメロディを紡ぎ始める。





硲道夫
 
「――ほら、名前、起きなさい」

 ゆさゆさと肩を揺さぶられる。薄目を開けて見ると、きっちりとした服装の寝ぐせ一つない道夫さんの姿があった。教師時代の名残もあるのだろうけど、彼目覚めが信じられないほど良いのだ。朝起きることに関して、私は彼に勝てたことが正直一度も無い。

「……道夫さん、」
「どうかしたのか」
「昨日ね、嫌なことがあって、眠ればちょっとすっきりするかな、って思ったんだけど」

 彼が屈んだ。ベッドに横になる私の目線に合わせる。
 ごめんね今日あんまり体調良くなくて、そう言われて頼まれた分厚い書類。いつもより少し濃い化粧に金曜日と言う日付も照らし合わせて考えると、きっと遊びに行くんだろうな、ということは分かっていた。お昼休みに今日合コンだと言っていたし。私と言えば久しぶりに定時で上がれる、と思っていた矢先の、彼女の落ち度での書類の追加にうんざりしていたけれど、皆の前で言われた手前、断ることもできなくて、いいよと返答したのだ。
 恋人が居るとは言っていない。まさかその人と過ごす予定があるのだとも言っていない。道夫さんは今やテレビを点けると居るような売れているアイドルで、言えるはずが無かった。私に仕事を押し付けた彼女からしたら、合コンに誘っても行かないし、飲み会も一次会で抜け出すような付き合いの悪い私には予定もなにも無いように思えたのだろうけれど。昨夜は道夫さんとゆっくり夕食を食べようと約束をしていたのに、仕事が終わったのは結局、終電間際で涙が出そうだった。

「まだ、胃がむかむかする」
「そうか」
「道夫さんと夜ご飯食べるの、楽しみにしてたのに。ごめんなさい、夕飯冷めさせて」
「だが二人で食べることが出来た」
「うん」

 たまに夜中に食事をするのもいいだろう、と彼が言う。めそめそと愚痴る布団に半分くるまった私の髪の毛を慰めるように撫でながら、だが、と付け加える。

「朝食は食べてもらおう」
「え、」

 彼が布団をはぎ取る。咄嗟のことで掴むこともできなくて寒暖差でぶるりと身を震わせる。恨めし気に彼を見る。

「道夫さんん、」
「朝食が冷めてしまうからな」
「うう、行きます……」

 ぺたりと足を床に着けるとあまりの冷たさにひっと跳ねた。彼はそんな私に笑いながら、ほら履きなさい、とスリッパを揃えてくれた。やっぱり二人で食べる温かいご飯の方が美味しい。




古論クリス
 もう先生は先生じゃないのに。どうにも先生と呼ぶ癖が付いてしまっていて直せないのが困りものだった。

「先生、お久しぶりです」
「名前、どれほど私が会いたかったか!」

 今日の名前もとても素敵ですね、出会い間際にぎゅうっとハグをしてくることに対して、いやあ先生って向こうの血が入っているんだなあ、と再認識してしまう。
 さっそくですが、お昼を食べてから何をするか決めましょう。先生が車道側に寄る。私の腰を軽く抱き寄せながら、近すぎるぐらいの距離で、他愛もない話をする。先生とのデートは好きだ。計画を立てないから、のんびりと過ごすことが出来る。大体は先生がおすすめする水族館に行くことが多いけれど、それもとても楽しく思える。こんな風にデートをするのは、先生が先生だった頃から変わらないことで、やっぱり魚を見て饒舌になる姿もてんで変わっていない。
 私と先生が付き合い始めたのは、私が大学二年生の頃だった。私の専攻は情報科学で、先生とはまったく関係ない分野だったのだけれど、先生がデータ入力のアルバイトを募集しているところを、私の専攻の教授のツテで入らせてもらったのだ。ちょうど赴任したての先生には受け持つ生徒も居なくて、アルバイト探しに難儀していたようだったから、とても喜ばれた。だけれど専攻も違うしあまり会話も弾まなくて、それでも割のいいアルバイトだったから続けていた。後期に入って、前期落としてしまった一般教養の単位を取る必要性に駆られて、ふらりと立ち寄った講義が先生の概論で、小さい教室だったこともありすぐに見つかった。途中で切ることもできずに、話を聞いて居ると案外面白かった。小テストは難しかったけれど。そんなこんなで話すことも増えて、私自身魚に興味が湧いて、授業のための買い出しだったり採取だったりに付き合うようになったのもすぐだった。そのうちプロポーズかな、と思うぐらいの情熱的な告白をされて今に至る。当時は驚きすぎて目がまん丸になった。

「名前、卒業研究は進んでいますか?」
「んー、ぼちぼち……」
「あまり先生を困らせてはいけませんよ」

 私が三年生の後期になると、就職活動が忙しくなって少しだけ会う時間が減った。そのときだった。人づてに先生が助教授を辞めてアイドルになることを知ったのは。最初は驚いたものの、彼女目から、いや普通に見ても先生は美人の部類に入るし、別に問題無いだろうな、と思った。今はテレビで見ていると助教授をしているときより、目がきらきらしているし楽しんでいるようだし、先生にとっていい選択だったんだと思う。 

「先生も有名人になっちゃいましたね」
「そうですね。名前と外に出る時に、少しだけ用心するようになりました」
「前まで出会い頭に、頬にキスをしたり、水族館の暗がりに紛れてキスしたり、手の甲にキスしたり、……先生もしかしてキス魔ですか?」
「おや、ようやく気が付きましたか?」

 そう言えば、前まで妙に唇が荒れるな、とは思っていた。今思えば先生が所かまわず口づけを落としてくるせいじゃないだろうか。なぜ今の今まで気が付かなかったのだろう。自分で自分にほとほと呆れる。

「今は流石に、人が多い所では出来ませんが、家でしたら」
「そうです、ね?」
「ああそうだ。今日は私の家に来ませんか? 美味しいお酒をいただきましたが、一人では飲みきれないのでぜひ名前と一緒に」
「んー、?」
「ご飯も私が作りましょう。メインは、今の時期ですと、そうですね、サワラなどどうでしょうか。脂がのっていて大変美味しく食べることが出来ますよ」
「行きま、……す」
「でしたら市場に行きましょう」

 ぐるん、と方向転換をする。魚に釣られる私も私だけれど、先生の魚料理は本当に美味しいのだ。捌くのも上手い。やはり専門ということもあるのだろうけれど、恋人としては少し複雑である。

「さっきから先生にものすごく流されている気がするんですけど、これ結局家でいちゃいちゃするという解釈で良いんですか?」
「ええ、そういうことです」

 先生の指が私の指と絡まる。人の入りが少ない道だからと完全に油断しきっている。今日の下着何だったかなあ、キスだけで終わるはずがないのでそんなことを考えるけれど私の頭はちっとも思い出してくれない。



 

天道輝
 てる〜すきー、輝の背中に抱き着きながらそう言う。美味しいご飯を作って貰ってお腹いっぱい、ソファに座りながらアイスを分け合いっこしながら食べて、幸せいっぱいだ。ご機嫌だと自分でも分かる。

「輝の背中が好き」
「あんまり言われると照れるから止めてくれよな」
「輝はかっこいい」
「もう止めろって」
「おいしいご飯ありがとう、お嫁さんにしたい」
「嫁さんになるのは名前だろ?」
「……遠まわしなプロポーズ?」
「ちゃんと雰囲気が良い所でするからもうちょっと待ってくれ」

 食事のときにお酒も飲んだから気分が双方ふわふわしている。
 輝とは大学時代からの付き合いだ。輝はサークルでもゼミでも中心的で、まとめ役をよくしていた。輝自身は一人っ子だと言っていたけれど、世話役なところも頼れるところも兄貴分という感じで当時から皆から慕われていた。そんな彼といたって普通の私がお付き合いしていると言うのもなんだか不思議な話だ。
 ぺこん、と通知音が鳴る。画面を見れば弟からで、今度の休みに東京に行くから泊まらせて、とのことだった。返信面倒だなあ、とぽい、とスマホをそのままに、輝の膝に頭を乗せる。誰からだ?、と彼が尋ねるので弟、と返す。

「名前ってけっこう弟の扱い雑だよな」
「そうかな。歳もあんまり離れてないと、皆そんな感じだと思うけどね」
「あー、でも羨ましいよ。俺兄弟居ないから。なんだかんだ言って仲良いだろ?」
「結局泊っていいよってなるし、私も実家居た時は一緒に遊んだりなんだりしたから、そうかも」

 輝が私の髪の毛を梳く。
 ふと、輝はそういう経験をしたこと無いのかなあ、と思った。輝の性格だ。きっと所属する事務所の中でもまとめ役として、ユニットの中でもリーダーとして奮闘しているに違いない。テレビを見ていてもそう思う。

「そうだ、私がお姉ちゃんになってあげようか?」
「え?」
「妹だと寒いでしょ。お兄ちゃんって呼ばれるの」
「いや、それもそれでアリだな……」
「目がやらしいんですけど」

 早々に起き上がって腕を広げて彼を抱きしめる。中々に無いことなんじゃないだろうか。私はよく輝から抱き着かれるけれど、私から真正面から彼を抱きしめることはあまりしないし。弟になった気持ちはどうですか、と彼に尋ねると煮え切らない返事が返ってくる。なんだか姉と言うよりはお母さんになった気分だ。胸の中に居る彼の背中に腕を回すと、彼もまたぎゅっと腕を回してくる。随分と甘えん坊なだなあ、と髪を撫でる。



牙崎漣

「円城寺さん、牙崎くんってすごく可愛くないですか?」
「漣だけじゃなく、タケルも可愛いっすよね?」
「んんっ、円城寺さんも可愛いらしいです……」

 男道らーめんにて。牙崎くんと大河くんは、おそらくランニングのために外出中だ。私はと言えば、しあさってTHE虎牙道がゲストで出演のラジオの原稿が送られてきたので、それを彼らに届けるために訪れたのだった。お昼時をだいぶ過ぎた時分ということもあり、お客さんは居ない。今は、仕事をしていたらお昼ご飯を食べ損ねてしまったので、愛増ラーメンを注文したところだった。

「この前の牙崎くん出演のドラマ、やっとオンエアされたので確認がてら見たんですけど、最高だったんですよ」
「ああ、学校もののっすね」
「あれ、端からすごく努力して演技の練習していたのを見ていたせいか、もう牙崎くんが出るたびに涙ぼろぼろで……」
「自分も卒業式のシーンはうるっと来たっす」
「そこはもう鼻水が出すぎて頭がガンガンしてました」

 からんからんという音が聞こえた。おい帰ったぞらーめん屋、円城寺さんただいま、二人の声が後ろから聞こえてばっと振り向く。

「プロデューサーか、何か用事があったのか?」
「はい。ラジオのゲスト回の原稿を届けに。……牙崎くん」
「……なんだ?」

 紙袋を持って彼の元に行く。もう私には言葉でこの感動や嬉しさを伝える語彙が無いから、結局物品に頼ってしまうことを許してほしい。私の顔を見た彼は引き気味である。よほど怖い顔をしているのだろう。

「これを……」
「なんだこれ」
「あの、先日のドラマ本当に感動して、もう本当に牙崎くん頑張ったなって、それで、居ても立ってもいられ、」

 ドラマでの場面と、事務所での彼の頑張りが瞼の裏に浮かんでくる。ちょうどその時はドラマの撮影と並行して、イベントライブがあって、そのダンスレッスンやボイスレッスンが重なって彼には大きな負担をかけた。だけれどドラマの役は彼しかいないと言うべきなほどぴったりの役で、諦めきれなくて彼に無理をしてもらったのだ。そのせいで夜遅くまで練習をさせたこともあったし、悔しい思いをさせてしまったこともあった。それが思い出されて、言葉を言い切る前にぼたぼたと涙を零していた。

「おい、オマエ……!」
「名前さ、」
「チビはティッシュ持ってこい!」

 あたふたとする彼が泣くな!、と彼自身の肩に私の頭を押し付ける。こんな優しい子になって、と更に涙が出る。

「あ、あの、だから……」
「だから泣くなって!」
「お菓子食べていいから、」
「今は菓子とかの話じゃねえだろ!」
「円城寺さん〜!、牙崎くんが、優しい〜!」
 
 えぐえぐと泣いていると、横から大河くんがおずおずとティッシュを差し出してくる。それに私はティッシュを何枚か引っ張り出して、鼻をかんだ。お菓子、と懲りずに紙袋を引っ張り上げながら言うと、それどころの話じゃねえだろ!、と怒号にも似た声が頭上から再び降ってきた。



20180318
柏木翼にべたべたに甘やかされる話
天ヶ瀬冬馬にデロデロに甘やかされる
こっそり気を使ったり甘やかしてくれる次郎先生
葛之葉雨彦に甘やかされるお話
Pを甘やかしてくれる都築さんのお話
硲先生にうんと甘やかしてもらう・仕事を頑張る彼女の弱音を聞いてひたすらに甘やかす
非P年下ヒロインで古論クリスにゲロゲロに甘やかされてお姫様扱いされるお話
おうちで彼女さんがてんてるに甘やかされてるところから今度は甘やかしてあげる ・天道輝が甘やかす話・ 好き、かっこいいなど好意をすぐ言葉にしたがるタメ口の彼女と輝さん
牙崎漣くんをでろでろに甘やかすお話


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