++還る



 本当に笑えてしまう話。今私は、実家にも帰らずに海に向かう電車に揺られている。今だけは、自分の突発的な行動力に脱帽しているし呆れてさえもいる。
 両親は、私がこの病を患ったと話を聞くと、今すぐ帰ってきなさいと言ってくれた。帰って、ゆっくりしてから、あとのことは考えなさい、と。荷物は既に送ってある。小脇にあるのは小さなキャリーバッグだけだ。今日のうちに帰ると連絡したのだけれど、それも無理そうだと、適当な嘘を吐いて今日は帰れない旨をメールで伝えた。
 がたんごとんと電車が揺れる。夕方から乗り始めた電車は、帰宅途中のサラリーマンや学生達でいっぱいだったけれど、流石に9時を回れば人影も見る見るうちに無くなっていった。スマートフォンの通知はとうの昔に切った。メッセージが届いても気が付かないフリをする。そうすることしか出来なかった。
 次は終点、次は終点、とアナウンスが鳴る。ここからは電車を乗り継いで、また行かなきゃ。駅の掲示板で接続を確認した。私は海に向かっている。海ならばどこも一緒だと、頭の中ではそう思っているのだけど、身体の方はただ一カ所の海を目指しているようだった。DRAMATIC STARSと撮影で行った海。こんな時にまでプロデューサー心が出てこなくていいのになあ、と思うのだけど、その時の撮影では朝早くに行って帰ってきたので、海に落ちる夕日が綺麗だと評判の場所だったのに、ついに見ることが出来なかったのだ。それを見に行きたいとずっと思っていたのだけど、とうとう今の今まで見ることが叶わなかった。これから実家に帰ったとして、こんな状態の娘を一人旅させるような両親では無い。きっとこれからは自由が無くなる。身体的な自由も、精神的な自由も。だからそれが尽きてしまう前に、行かなければならないと、そう思ったのだ。

「次は、30分後……」

 ホームのエスカレーターを使って、次の電車が来る線路の近くのベンチに座って息を吐く。少し前より、息が上がりやすくなったかもしれない。だんだんだんだん、そうやって不自由なことが増えていくんだと思うと、少しいやだった。
 今日は彼らの、生放送のバラエティだった。ちゃんと行っているのだろうか、とスマートフォンを取り出して、テレビをつける。充電は残り67パーセント、少しずつ使えば大丈夫。
 バラエティ特有のがやがやとした声と効果音が聞こえる。番組がちょうど始まったばかりのようだった。天道輝、柏木翼、そうテロップが流れる。もう一人の姿が見当たらないと首を傾げると、天道さんが、桜庭は体調不良で急遽休みになって、とコメントした。そんなこと、今まで一度も無かったのに。もしかしたら体調がひどく悪いのかもしれない、大丈夫だろうか、と連絡しようとして、はっと手を止める。私はもう、プロデューサーじゃない。







20170911


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