++浮遊ずる


 緊急搬送用の入り口から担架で運ばれていく自分の身体を見る。付き添いで来てくださった桜庭さんは、CT室に運ばれていく私に呆然と立ち尽くしていた。
 真っ白い壁に真っ白い床。病院特有のつんとした消毒液のにおいが鼻に来る。彼はふらふらと待合室の椅子に腰掛け、はあ、と息を吐いた。項垂れて、いつも以上に顔が白くなっている。私も彼の隣に座った。しばらくすると看護師さんがぱたぱたとこちらに来る。名字さんのお付きの方ですよね、そう桜庭さんに確認を取ると、診察室に行くように促される。
 私のことだけど、入って良いものなのだろうか。とてもじゃないけど入ってはいけないような気がした。彼はずるりと立ちあがる。透明な私にぶつかることなくいつもより弱々しい面持ちで部屋の中に入っていった。
 どうしようかな、私は独りごちる。こうやって魂が抜けているってことは、死んでしまったということで間違いが無いのだろうか。今さっきCT室に入ったということは脳が損傷しているということなのだろうか。それじゃあ俗に言う脳死の状態?、つまり遅かれ早かれ死ぬ運命なので魂が抜けてしまったと言うことで間違いないのだろうか。
 はー、と私は息を吐き出す。事務所の近くにできた古民家をリノベーションしてできたパンケーキ屋さんに行きたかったし、あと今日発売のレジェンダーズの皆さんが載っている雑誌を退社後に買おうと思っていたのに、桜庭さんが出演されている医療ドラマは今良いところだし、ハイジョーカーの新曲のCDもデモを聴こうと思って事務所の机に置いたまま、神谷さんからいただいたベルガモットの紅茶も一口も飲んでいないし、とにかくやり残したことがたくさんあるのにも困ったものだ。

「……どうしようかな、」

 天からのお迎えがあったとして、このままぼんやりと待っているのも癪である。最後の最後ぐらい自由に色んな場所に行かせてほしい。先ほど救急車に乗れるということが実証されたので、乗り物には乗ることができると仮定して、このまま着の身着のまま旅に出るのもいいかもしれない。そうと決まれば、と私はすっと立ちあがった。



20180124


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