++天秤はどちらに傾ぐのか/天道輝,天ヶ瀬冬馬


 どうしてこうなったのだろう。私はテーブルの上に乗せられた二つのワンプレートランチを目の前に固まった。右、は中華風のもので、天ヶ瀬さんが作ったものだ。真ん中に盛られたご飯、ふわふわ卵のエビチリ、もやしのナムル、にら饅頭、わかめスープがバランスよく並んでいる。打って変わって左は天道さんが作ったものだ。ひじきとわかめの五穀米ごはんのおにぎり、あおさのお味噌汁、豆腐ハンバーグ、付け合わせの煮びたしとほうれん草のお浸しが並ぶ。俺の作った料理の方が美味そうだろ?、いや俺の方が!、という会話が頭上で繰り広げられる。二人とも元気だなあ、と思いながら私はいただきますと手を合わせた。どちらから先に食べよう、悩む。


・・・

「――なるほど、コンセプトは恋人と食べたいおうちランチ」
「ワンプレートで指定されてんだけど、冬馬とどうしようかって話をしててな」
「まあこれで上手く行けば、次のお仕事に繋がりますしね……。テレビはもちろん、雑誌にも……。そうだ、一回作ってみればいんじゃないですか? まだ収録まで期間もありますし、試作会がてら」

 二人とも、雑誌や対談などで料理が好きであることはたびたび公言しているけれど、その周知度もそこまでなのは、やはりそういった専門のメディアでの宣伝が無いからだろうな、とは思っていた。それとなく料理方面でも営業をかけていたが、そのかいあってか先日料理番組でのオファーをいただいたのだった。
 スタジオの中にキッチンが二つ。プライベートなお話も交えながらゆったりと行う料理番組で、最後はゲストとレギュラー、どちらの料理の方が美味しいか、という勝ち負けも決める。レギュラー陣は場慣れしていることもあり、ゲストであるこちら側の分は少し悪い。そこで試作品を作ってみるのはどうか、と提案したのだった。

「まあ事務所のやつらに頼んだら、評価なんかもしてもらえそうだしな」
「その道のプロもいますし、趣味が料理の方もいらっしゃいますしね。女性目線でと言ったら、私も協力できると思いますし」
「名前さんが協力してくれるんだったら、向かうところ敵なしだな」

 私が事務所に居る時は協力できるので、と言うと、二人とも頼もしい返事をしてくれた。


・・・

「中華だと目でも華やかじゃないっすか」
「確かにそうだけどよ、なんつうか、量多くないか、それ」
「これぐらい食べるもんじゃないっすか? ていうか天道さんのちょっと爺臭くないです?」
「爺?!」
「豆腐ハンバーグはともかく、おひたしとか煮びたしとか」
「いいだろ、和風! ヘルシーだし!」

 ああそういえば、試作したものを食べる約束をしていたなあ、と思い出す。二人ともお仕事に対してはとても真摯なのだ。がみがみと頭上で言い合う姿を眺めながら、私は箸を進める。豆腐ハンバーグがおいしい。
 黙々と食べ進める。天ヶ瀬さん作のエビチリもきちんと下ごしらえをされているし、片栗粉をまぶしているおかげかぷりぷりとしたエビが美味しい。ナムルもにんにくがしっかり効いているし、わかめスープも優しい味がする。にら饅頭ももちもちしてる。対して天道さん作のおにぎりは一口サイズで食べやすいし、普段摂らないわかめやひじきが入っているおかげで健康に良い感じがする。豆腐ハンバーグも鶏肉を使っていてさっぱり食べられるし、あおさのお味噌汁も磯の風味がして美味しい。付け合わせの煮びたしやおひたしもほっとする味がする。二つとも、私が普段食べないようなお料理なので、少しだけ新鮮だ。この二つを二人が作っただなんて、ちょっと信じられない。特集組んだら売れそうだなあ。見出しは天ヶ瀬冬馬と天道輝の休日メシ、なんてどうだろう。いい感じのキッチンスタジオを借りて、撮影するのもいいなあ。あとプロダクションのオフショットでそういう企画をするのもいいかもしれない。
 朝ごはんがゼリーだったことと、午前中は営業で忙しなく動いていたこともあり、ぱくぱくと食べてしまう。名前さんは、と天道さんが久しぶりに私を見遣ってぎょっとする。

「――うわ、ほとんどない……」
「すみません。美味しかったので食べちゃいました」

 口々に翔太かよ、翼か、という彼らの声が聞こえるけれど、失敬な、その二人よりは絶対小食である。そもそもお米の盛りがそんなになかったじゃないですか、と抗議の声を上げた。

「で、どうだった?」
「美味しかったですよ。こう、不摂生な生活をしてる身としては胃の底にじんわり来る感じと言いますか」
「普段からちゃんと食べてくださいよ、じゃなくて」
「にんにく使うとおうちランチなので、というのと、味が似通ると飽きるかもしれませんね。私は気にしないですけど」
「なるほど」
「でもわかめスープが本当においしくて、あと豆腐ハンバーグ絶対入れた方がいいです。和食とか洋食にこだわらなくてもいい感じもするんですけどね」
「参考になったぜ、ありがとうな」
「いえいえ、こちらこそ美味しいものを。ところで、」
「なんだ?」
「おかわりいただいてもいいですか……」

 天ヶ瀬さんと天道さんが私の皿を見る。見ての通り空っぽである。二人顔を見合わせて、驚いたようにまだ食うのか、と呟いた。その表情、柏木さんと御手洗さんに彼らがそう言うときの表情にそっくりだ。美味しかったしお腹が空いてるんだから仕方がないじゃないですか。

 



20180520
お題箱より。天道さんと冬馬くんの料理対決の審査員になるお話。


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