++my sweetie, my sweetheart/舞田類


 類の顔は良い。これははっきりと言える。彼女目じゃなくて一般的に見てかっこいい。絶対いい。これで不細工だなんて言う腐った目をした人が居たら私が拳で分からせてやるって思うぐらい顔が良い。くりっとした女の私でも羨ましいと思うような大きな瞳に、整った鼻筋、薄い唇。滑らかな肌荒れ一つない綺麗な肌。ぱさぱさとしたまつげはマスカラなんて要らないくらい長くて、にっこりと笑う表情は魅力的。一見して女性のようにも思えるような中性的な顔立ちだけれど、首の筋張り具合や喉仏は男性のそれで心がぎゅんぎゅんする。それにさらさらの痛みなんて知らないような明るい髪色は類の顔立ちに合っている。

「……名前、」
「私のことは気にしないで」

 真ん前には台本を読み込んでいる類。私といったら頬杖をついて、俯きがちに、真剣に活字を追う類の顔を凝視している。
 私が類と付き合っていることは秘密だ。類の隣の部屋の山下さんは類が教師だった頃から鉢合わせしているから知っていると思うし、あとはユニットメンバーの硲さんと類の事務所のプロデューサーさん、あと事務所の何人かは知っているかもしれないけれど、それらの人以外の人は知らないと思う。今人気急上昇中のアイドルに恋人が居るだなんてことが発覚したらそれこそスキャンダルだし。デートでも外に出る機会がぐんと下がったけれど私は気にしない。全然気にしていない。むしろこうやって類と二人きりで一緒に居られることが増えて嬉しい。

「名前の目が気になるんだよ……」
「分かった。視線外すようにたまに見るから」
「そういうことじゃない……」

 間接的に類の邪魔をしているということに大変申し訳なくなってきたので、スマホを取り出す。と言ってもメールのチェックもしなくていいし、返信するようなメッセージは無いし、ソシャゲは体力回復待ちだし、プロダクションのSNSの更新はされてないし。仕方がないとよく広告で見るゲームをインストールする。せっかく類と一緒に居れるし、と本を持って来なかったのが悔やまれる。
 玉を繋ぐシンプルなゲームだ。ストアの評判はなかなかに上々。やってみると結構面白いし無心になれて良い。
 類がメンバーの一員であるユニットは、衣装が衝撃的なユニットなのだけれど、山下さんと硲さんが30代で大人の色気が漂って来るようなCMや撮影があることもあり、高校生だけではなく20代から30代の女性にも人気のユニットだ。会社の同僚とセムのことを話すことがあるけれど、みんな山下さんの色気が〜、硲先生の真面目なところが〜、と言って類のことを触れる人の少なさ。山下さんも硲さんもめちゃくちゃかっこいいけど一番かっこいいのは類! 類でしょ?!、と叫びたくなるのをいつもぐっとこらえている。二人とも成熟した大人の色気を漂わせているけれど、類のいつもの快活とした表情の中で時折見せる切なさを帯びた表情のギャップもすごくない? それにテレビでも日常生活でも英語交じりの日本語を話すからか軽薄だとかチャラいとかよく言われるけどそう言う人は類の魅力を分かっていない。類は仕事で手を抜いたことなんて一度も無いし、その姿勢も真摯だ。ドラマに初出演したときは演技の練習に打ち込んでいたし、その貪欲さが買われて色々なドラマや舞台にオファーがかかるようになった今でもそれは変わらない。台本をこうやって読み込んで、たまに唸りながらぶつぶつと身振り手振りをし、セリフをしっかり覚えて、そうやって仕事に向かう。教師時代、夜も生徒のために授業案を練っていたときと変わらない仕事に対しての真剣さだ。
 教師のときよりも類は忙しくなった。会える日も少ない。それが寂しくない、と言えば嘘になる。しかしそれ以上に類が楽しそうに仕事をする姿が嬉しいし、私のせいで類の足を引っ張ってしまうのはすごく嫌だ。

「――名前」
「なあに」

 類が声をかける。ぱたんと台本を閉じておもむろに立ち上がると私の後ろに来て、後ろから抱きしめた。

「どーしたんですか類さん」
「名前ってhonors studentだよね」
「というと?」
「もっとわがまま、言ってくれていいのに」

 類の言いたいことも分かる。類がアイドルになってから、私は外でデートしたいと言わなくなったし、会える回数が少なくなってもしょうがないと割り切ってきた。だって類はアイドルだ。私一人の感情で振り回して、彼らの夢を壊してしまうわけにはいかない。
 類の胸板、厚くなった気がする。もともとテニスをしたりサーフィンをしたり、活動的な類だから筋肉質な方だとは思うけれど、アイドルになってからそれがもっと増したというか。

「……名前?」
「おりゃ」
「What?!」

 抱き着いたままの類押し倒す。そのままぐるりと身体を反転させて、鼻と鼻がくっつくぐらいの距離で類を見る。類はびっくりしたみたいで目をぱちくりとしている。もしかして頭とか肩痛くした?、と尋ねるとNo problemだよ、と私の髪を撫でる。

「もっとかまってほしいなって思うときもあるけど、私が、仕事と私どっちが大事?って言うような女じゃないことは類だって知ってるでしょ? 私のことは良いから台本読んじゃってくださーい」
「……名前がスマホばっかり見てるのもno funなんだよね」
「わがまますぎない?」
「名前はわがままな俺は嫌い?」
「めちゃくちゃ好きだけど」

 類は自分の武器を分かっている。うるうるとしたそんな目でも見られたら嫌いだなんて絶対に言えない。言うつもりもないのだけれど。
 形勢逆転して、類が私を押し倒す。唇と唇とがくっつきそうだ。呼吸の音が聞こえる。私は手を類の唇と自分の唇との間に挟んでだめ、と言った。

「台本まだ読んでないんでしょ? 読んでくださいー」
「名前がとってもprettyだからちょっと、turned on」
「……電源を点ける?」
「umm、You're wrong! 名前って昔から、English苦手だよね」
「類と比べたらね……」

 どういう意味なの?、と尋ねると、類は分かってるくせに、と言った。こんな体勢になったときから予想はついていた。類は私のブラウスをするすると押し上げて、手のひらを私のお腹に密着させる。それがくすぐったくて身をよじるけれど、だめ、と動けないように足の間に膝をつかれてしまう。逃げられない。類の目が怪しく光った。
 著しく性欲を感じるって意味だよ。類が、耳元で囁いた。




20180708
お題箱より、舞田類にかまってほしい・舞田先生とおうちでごろごろ



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