++たぶんここから/北村想楽


 日が傾き始めている。水平線の向こうには、よく熟れた太陽が沈もうとしている。強烈な西日に腕で影を作る。このあと打ち上げどっかいく?、そんな声がわちゃわちゃと聞こえてくる大勢の声を離れた。砂を蹴りながら一人ぽつんと居る彼女の元になんと無しにふらふらと向かった。波の打ち際に沿って歩く、彼女の軌跡が、波に攫われて消えていく。
 おつかれー、と肩をつんつんと叩く。

「──あ、北村くんだ」
「はーい北村想楽ですー」

 よくあるボランティアサークル。就活用の、これまでにした社会貢献はありますか、みたいな項目を埋めるためだけに生まれたみたいな、そんな感じの。熱心に参加するのは結構珍しい部類で、大体の人は1回参加したら消えていく。そういう人が何十人も居るから、キャンパス内で会うこともあるだろうと思ったけれど、不思議なことに全く会わないのは神隠しみたいなものなのかそれとも僕が顔をよく覚えていないのか。まあ後者だろうけれど。僕も彼女も、サークル長にはなれない程度に何度か参加しているから、こうやって会うこともある。入れ替わりが激しいこの中で、何度も顔を見合わせることは珍しいから、お互い何となく認識してはいた。

「何してるの?」
「貝殻とかシーグラス拾ってた」

 流石にあの中に入っていけるほど心臓強くないよ、と彼女が笑った。
 今日の活動は、海開きも近いこともあり、砂浜のゴミ拾いとその周辺の整備だった。早朝から始めてゴミ拾いは午前中に終わったけど、整備は休憩も入れて、終わる頃には日も傾いていた。今回は海ということで金髪の人だとかこんがりと日焼けした人が多い印象だ。ウェイウェイ言ってそうな人たち。僕としても結構仲が良い人が今回は参加していなくて、手持ち無沙汰だった。

「北村くんもする? 綺麗だよ」
「しようかな。波打ち際見ればいいの?」
「そう。結構見つけるの難しいかも」

 隣に並んだ。
 名字さんのことはあんまり知らない。新入生歓迎会で奢られてたから同じ学年だと思う。あとはこの前、日本文学講義の授業で見たから、案外同じ学部なのかもしれない。

「今日暑かったね。もうすごく日焼けしちゃった」
「そう? 名字さん行きと変わらないような気がするけど」
「ワントーンぐらい絶対黒くなってるよ! 汗で日焼け止め流れたし」

 ほら、とオーバーサイズのシャツの袖を名字さんが捲った。生白くて細い、ふにふにとしていそうな腕が露わになる。確かにそこと比べると少し黒くなっている気もした。

「北村くんはあんまり焼けてないね」
「日焼け止め塗ったし、あとほら、僕赤くなって終わる派だから」
「羨ましいな、私なんてすぐ黒くなっちゃうもん」
「黒くならないけど痛くはなるからねー。今日お風呂入るとき染みそう」
「確かに」

 半ズボン、高校のときの体操着なのかな。薄手のシャツで、ブラの金具が浮き上がって見えた。髪上げてるの初めて見たかも。
 名字さんがほつれた横髪を耳にかけた。風が吹いている。
 色々と話しているうちに、随分と遠くに来てしまった。皆が集まっているのが米粒ぐらいに小さく見える。戻るのも億劫だった。もう鞄は持っているし、あとは部長が戻ってくるのを待っているだけだし。あの中で飲み会なんてして、楽しめそうな気もしなかった。

「ねえ北村くん」
「なに?」
「一緒に逃げちゃう?」

 びっくりして思わず彼女を見る。オレンジ色の日に照らされた彼女が、何その顔、と笑った。びっくりした。だって名字さん、真面目だし、そんなこと一番言わなそうなのに。
 名前と学年、それぐらいしか知らない。これからもこうやって、サークルとか講義室で何となく顔を見合わせて軽い挨拶をして、それだけなんだろうなあと思っていた。

「いいかも」
「じゃあ急ごう、次の電車15分後だし」
「その次は?」
「1時間後ぐらい。乗り合わせるのは、」
「「絶対いや」」

 お互い思わず顔を見合わせて噴いた。さあ急げ、と砂の上を半分走る。




20180720
北村想楽の同じ大学の友達が付き合い出すまで(好意を持ち出すまで)のはなし




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