++それは恋だよ/天ヶ瀬冬馬



 どれだけ嫌なことを言われても例え罵倒されたとしても、それが正当な評価で無いなら落ち込む必要なんて無いんだよ。毅然とした口調で言い切った名字が印象的だった。クラスの中でも取り立てて目立つわけじゃない。むしろ髪は染めてないし、化粧気も薄い、制服もちゃんと着てるから地味な方だ。でもそこからだった。名字のことを認識したのは。


「あれ天ヶ瀬くん居残り? 仕事ないの?」
「最近撮影続きで授業休んでるから課題あるんだよ。名字は?」
「私は普通に勉強。受験近いし」
「名字って意外と真面目だよな」
「意外って。……天ヶ瀬くんは? どこか受験するの?」
「まだ決めてない。なんとなくしたいことはあるけど、仕事忙しいから授業受けられるか分かんねえし」
「でも天ヶ瀬くん成績良いし、特別に勉強しなくても行けそうだよね。いざとなったら一芸入試とかすればいいじゃん」
「それあれだろ? 芸能人とか有名人枠。ずるしてるみたいでやだなそれ」

 名字が開いた赤本をちらりと見た。よく大学同士での野球で有名なところ。そういえば名字は高校よ夏期講習でも、一番上のクラスで授業を受けていると聞いた。

「……天ヶ瀬くん仕事楽しい?」
「ああ。大変だって思うときもあるけど、楽しいよ」

 こうやって名字と話すことも久しぶりかもしれない。クラスの皆は、俺と名字がこんな風に話すことも知らないだろう。
 ほんとずりいよな学校なんて来てないのに進級出来るんだから。それが俺のことを言っているのはすぐに分かった。こういう芸能界の仕事をしていれば、ひがまれることもたくさんある。いちいち気にしていたらキリが無いと、予習のために教科書に視線を落としたとき、しっかりと通る声でこう聞こえた。でもあんたたちより成績良いじゃん陰口叩くより勉強すれば?、と。そちらの方を驚いて向けば、今までいくらか話したことがあるだけの名字が冷ややかな目をして、ノートの返却をしていた。その日の放課後、名字と廊下ですれ違ったときに、お礼を言った。すると彼女は、「どれだけ嫌なことを言われても例え罵倒されたとしても、それが正当な評価で無いなら落ち込む必要なんて無いんだよ」と言った。格好いいなと思った。そこから名字のことが気になり始めた。どんな本を読んでいるのだとか、得意な教科と苦手な教科は何だろうだとか、家どっちの方面なんだろうだとか。名字は放課後、教室に残って勉強をすることが多いから、俺も学校に行くとき宿題を出されれば教室で勉強をするようになった。
 卒業まであと半年。そうしたら、名字と会えなくなる。言葉にし辛いけど、いやだと思った。

「名字と同じ大学行ったら面白いんだろうな」

 不意を突いてそんな言葉が自分の口から出てきて、驚いていやその、と口ごもる。興味ある学部あるし、と付け加えると、名字は目を真ん丸にして、そして意地悪く笑った。

「今の天ヶ瀬くんじゃ無理だよ。もっと英語の点数伸ばさなきゃね」
「言ったな? すぐに追い越してみせるから覚悟しとけよ」
「じゃあ今度の定期テストで勝負でもする? 私が勝つけど」
「望むところだっつうの。負けて泣くなよ」





20180802
お題箱より、天ヶ瀬冬馬とnotPの女の子との恋のお話 、毒舌夢主と冬馬くんの話が読みたいです。冬馬くんが夢主に片思いしてる感じ


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