++sidemお題小話まとめ


夢主がP

プロデューサー、牙崎


他愛もない話/プロデューサー

「名前さんっていつも僕のこと、プロデューサーって呼びますよね」
「そうですかね」

 席が隣同士の彼とは、机に齧りついて仕事をするときはこうやって他愛もない会話をすることがある。アイドル達からしても、自身をプロデュースするプロデューサーの二人が多少うるさくても険悪なムードで働いているよりは、幾分かいいだろうと私個人としては思っている。

「そうですよ」
「――プロデューサー、明日の資料、社用のアドレスに送ったので確認してください、あっ」
「ほら、やっぱりプロデューサーって言ってるじゃないですか」
「あー確かにそうですね」

 315プロダクションに入社した時期もほぼ同じ、プロデューサーという珍しい職をしているということもあり、打ち解けるまでには長く時間はかからなかった。時間が合えば飲みに行くぐらいのプライベートな親交はある。

「一回ぐらい名前で呼んでいただけませんか?」
「えー、やだ」
「やだって」

 彼が笑った。
 カタカタというパソコンの音が響く。そろそろ私はレッスンルームに居るフレームの皆さんに、次のイベントでの衣装合わせと打ち合わせに行かなくてはならない。その前にコーヒーでも飲んで一服するか、と席を立つ。プロデューサーコーヒーいりますか?、と彼に尋ねれば要りますとの声が届いた。一人分淹れるのも二人分を淹れるのもほとんど大差はない。最近社長に購入してもらったコーヒーメーカーのおかげで、おいしいコーヒーがすぐに飲める。うちの事務所は大所帯だし、最近は来客も多いし、あと粉骨砕身して働く私たちのモチベーションが上がるのであれば安い出費でしょう、と理由をつけようとしたが、すんなりと意見が通って、拍子抜けしたのも記憶に新しい。こういうところに関してはホワイトな会社だと思う。

「一回だけ」
「もう名前、忘れました」
「酷い……」
「つられるんですよ。みんなプロデューサーって呼ぶから」

 悲しいかな。彼の方がプロデューサーとしての貫禄があるのだろう。私はけっこうおっちょこちょいだし、身長もちっちゃいし、今思えばプロデューサーと呼ばれたことが無い。もっぱら名前か名字である。
 こぽこぽとコーヒーが注がれていく。ミルクを少しと砂糖をひとかけ淹れた自身のマグに口をつけながら、じゃあ一回しか言わないので、と言う。

「んははははん」
「それ口に出すというよりは、ハミングとかそちらの方に近いのでは?!」
「一回しか言わないって言ったじゃないですか。仕事してください」

 ことん、と彼のデスクに熱々のコーヒーを置いた。名前さんってたまに本当にいじわるですよね、と彼が眉根を下げる。よく言えば親しみやすい、まあ少し悪く言うといじりがいがあるというか。今日も同僚との仲は良好である。


隙あり!/牙崎漣

「3番が7番をくすぐる!」
「は?」
「死んだ」

 何をしているのかというと、こういったノリの良い集まりのときに時たま行われるゲーム、王様ゲームである。ルールは簡単だ。くじには王様と数字が書いている。そのくじで王様を引いたものは数字を指名し、その人にしてもらいたいことを言う。王様の命令は絶対で、拒否してはならない。

「名前さんがんばれ!」
「レンっちに負けるな〜!」
「ねえなんで私が牙崎さんとリアルファイトする流れみたいになってるの?!」

 王様ゲームって楽しいっすか?、と尋ねられたのが運の尽きである。私の世代からしてもそんなことをしたことがある人の方が稀な気がする。天道さんや山下さんあたりの世代ならば飲み会のノリでしたことがあるひともいるかもしれないけれども。私なんて一言もしたいなんて言っていないのに勝手に頭数に入れられていたし、レッスン終わり、収録・撮影終わりの学生アイドルたちのたまり場のようになっている私のデスク周りでは、いつの間にか十名ぐらいいるし。ふふん、と王様気取りの秋山さんが、名前さん頑張って!、とエールを送った。いや私も暇じゃないんだって! にじり寄るようにしてソファにどかんと座った牙崎さんににじり寄る。大手取引先に行ってプレゼンをするときよりも遥かに緊張している。
 隙あり!、と彼の脇腹めがけて突進すると、牙崎さんは持ち前の反射神経でガバリとその身を起こした。そしてオレ様に、と彼が口角をにたりと上げた。

「オマエが挑戦するなんて百万年はえーんだよ!」
「まっ、た! 趣旨が、ちがう!」

 ぐるんと体が反転して、気が付くとソファに投げられていた。組み敷かれたのが地面では無かったのは彼の優しさだろう。それにしたって元と言うべきなのかまだまだ現役な気もするけれども格闘家に技をかけられるなんて誰が想像できただろうか。
 がっしりと両手首を握られ、脚の間に彼の膝が縫い付けれている。やっば、と冷汗がだらだらと垂れる。凶悪そうな笑みを彼が浮かべながら、オマエなんて、と鋭く尖った犬歯が唇から覗いた。

「こうしてやる!」
「わああ! まったあああ! ひッ、ははははっ、はは、ひぃっああ、」

 わき腹をくすぐられる。なんとか逃げ出そうとするが、ガチガチに拘束されているので逃げ出せない。身をよじろうとするとシャツが乱れて見るも無残な姿になっていく。ここで負ける私じゃない。目を瞑り、だらんと身体を弛緩させて気を強く保って黙った。すると手ごたえが無くなって驚いた彼がおい、と私を呼ぶ。それに呼吸すらも止めた。周りの子たちがざわざわとし始めて、牙崎さんも焦ったように拘束していた手を離した。顔を至近距離で覗いているのが気配で分かる。彼が私に手を伸ばし、その瞬間私は上体を起こして彼の肩に腕を回した。頬から彼の筋肉質な首筋にかけてをするりと撫でて、ふうっと耳元に息を遣る。あんまり大人をからかうと痛い目みますよ、と囁いた。彼が目を見開いて飛び去る。

「勝った」
「……名前さんってさあ、おっかないよな」
「二面性が無いとやっていけない仕事なもので」

 ぽつりと若里さんが呟いた。私はそう返答して、何もすること無いんだったらさっさと帰る、暗いんだから!、と彼らを急かす。部屋の隅っこで機嫌悪そうにする彼だけれども耳だけは赤いかった。




20190102


プロデューサー、罰ゲームか何かで牙崎漣に脇腹を擽られるお話



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