++おとなこども/四葉環



「名前ちゃん、オレと、付き合ってください」
「嫌です」
「なんで?」
「四葉さんが子供だから」
「俺抱かれたい男5位だし、ヤマさんよりちんこデケえし、」
「待てタマ、俺けなすなよ」

 指折りに"大人"であることを数え始めた四葉さんが、二階堂さんに突っ込まれる。
 やだやだ、俺名前ちゃんと付き合いたい、とわめきたてる。それにぴしゃりと私は言った。そういうところが子供だから嫌なんです、と。

「しっかし、タマも食い下がるよな。あんまりにも一途だし情熱的だしでお兄さんちょっと恥ずかしくなるわ」
「名前ちゃん、俺子供っぽいの直す、それでもだめ?」
「だめです」
「なんで?」
「言ったら諦めてくれます?」
「えー、できれば諦めたくない」

 はあ、とため息を吐く。私は、あなたが自社のアイドルだからです、と返答した。
 クランクアップの打ち上げですっかりと出来上がっていた逢坂さんを回収して寮に届けるときに、既に年長の方々も出来上がっていた。アルコールを含む席だと、アルコールを飲んでいなくてもどこか浮き足立つもので、昨夜放送された彼らゲストのバラエティ番組をリビングで見ながら談笑していた。そこで囃し立てるように二階堂さんが、思いの丈ぶつけてこい!、とどんと彼の背中を押し、逢坂さんをソファに座らせた私の目の前に立たせたのだった。

「あんたも往生際が悪いっつうか、たまがこうなの前から知ってただろ?」
「アイドルとそこの事務所で働く事務員ですよ? 社長が許すと思いますか? 言葉は悪いですけど、商品に手出す店員みたいなものですよ」
「別にアイドルなんて関係ねえし。俺が名前ちゃんのこと好きなだけだし」
「あなたとお付き合いした場合、私が事務員を辞めさせられる可能性もあります。社長の逆鱗に触れればすぐにクビ切られるので。もう二度と一緒にお仕事できないと思いますよ」
「それ、ぜってえやだ」

 さっ、と四葉さんが青ざめる。それにこういうときは俺が養うって言うんだよ、と二階堂さんが告げ口して、ハッとおうむ返しのように四葉さんが言葉を足した。
 小鳥遊プロダクションというのはそう大きくない事務所ではあるが、社長の他に、マネージャーの紡さん、マネージャー兼事務員の大神さん、その他にも何人か事務員が在籍している。私はその事務員の中の一人で、普段は経理関係の事務処理を行っているが、普通乗用車の免許を持っていることもあり、ごくたまに所属するアイドルたちの送り迎えをすることがある。紡さんや大神さんがどうしても都合がつかないときにだけ、今までそこまで多くは無かったものの、そこでものの見事に彼、四葉環さんに気に入られたのだった。
 どうして彼が私を気に入っているのかはよく分からない。大きな体を折り曲げて親を刷り込まれたヒヨコのように名前ちゃん名前ちゃんと後ろについてくる彼の姿は、思慕というよりは庇護欲や母性をそそられる。そもそも自社のアイドルだ。恋愛対象に見れるはずがない。車を出すときに助手席に乗ってきたり、王様プリンのストラップを可愛いと言ったら差し出してきたり、隣にびったりくっついてきたり、妙に好意的だと、これは、と思っていたのだけれど。まさか恋愛的な目で見ていたとは。

「名前ちゃんの小さいとこが好き。あと吸い込まれそうな色した目も好き。笑った顔が可愛くて好き。柔らかそうな唇とか好き。あと髪の毛とふわふわしてて好き」
「恥ずかしいからやめてくれません?」

 ヒュー、と二階堂さんが口笛を吹いた。他のメンバーからもざわざわという歓声が漏れる。やるじゃんタマ、と二階堂さんが煽る。一生一代の告白のようなことをしている四葉さんの顔が心なしか赤い。

「ボスだって言ってねえもん、恋愛禁止だって。じゃあ別に付き合ってもいいじゃん」
「だから事務員とその会社のアイドルで、」
「じゃあ秘密にしとけばいいじゃん!」

 こんな公開告白みたいなことをして秘密もクソもないのである。頭を抱えながら幾度とも分からないため息を吐く。ここまで食い下がってくると思わなかった。

「最悪、私と四葉さんがお付き合いすると私が捕まってしまうことも考えられるのですが」
「名前ちゃん、捕まる……?」
「18歳未満の方とお付き合いすると法令の関係で」

 だからそんなリスクを犯してまでお付き合いできませんし、と言うと彼が口を引き結びながら言った。

「名前ちゃん俺のこと好き?」
「嫌いではないですけど」
「じゃあ好きってこと?」
「友好的な意味では好きです」
「レンアイ的な意味では?」
「四葉さんを恋愛的な対象にしてないので、好きもなにも感情が無ですね」

 二階堂さんと和泉さんあたりがお腹を抱えながら笑っている。無って、とバシバシと机を叩きながら笑う彼らに、ヤマさんもみっきーもうるさい!、と一喝した。

「じゃああと一年で、俺のこと名前ちゃんに好きになってもらう。俺がんばるから、名前ちゃん一年待ってて。俺おとなになるし、ボスにも許してもらうし、あと俺が18なったら名前ちゃん捕まらなくなる」

 そうしたら名前ちゃんに好きになってもらえるかもしれねえし、と四葉さんが言った。今の子って意外と情熱的なんだな、と思いながら、一年で好きになれなかったら諦めてくださいね、と返答した。
 環おめでとう!、と口々に祝福の言葉が投げ掛けられるが、そもそも私は一回も承諾をしていない。面倒なことになりそうだ、とひとりでに思う。







20190115


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