++近況報告/宜野座伸元




「最近どうだ、監視官」
「そこそこ、ですかね……」

 護送車に寄りかかりながら名字は言った。金属の無機質な冷たさが火照った身体に浸透していく。
 名字がこの場所に来たのは新人監視官二名が手柄を立てた事件の後片付けのためだった。そこでよく見知った人物と遭遇をして苦虫をすりつぶしたような顔をすると、流石に傷つく、とそんな素振りをまるで見せないような顔で言われたのだから腹立たしい。
 係こそ異なったものの数年前まではやれ事件が起きれば捜査のために駆けずり回り、サイコハザードが起きれば事態の収束に奔走し、潜在犯がいると報告があればしかるべき場所に護送する。同じ職場で同じ業務を遂行する者同士であった。それが今では宜野座は外務省行動課捜査官である。ある意味異例の転身だ。

「優秀な人みーんな引き抜かれてこっちはてんやわんやしてますよ」
「それは霜月監視官にも言われたな」

 宜野座が笑った。相変わらず綺麗に笑うひとだ。頭何個分かも大きい男を見上げながら、笑い事じゃないんですけどね、と名字は悪態をついた。
 優秀な人間が引き抜かれて穴埋めで忙しい、そう思っているのはどうやら公安局側としては共通認識のようだ。なんだかんだ文句を言いながらも仕事をする霜月がそんな素振りを見せなかったから、厄介者が減って精々した、と思っているものとばかり思っていたのだがどうやら異なるようだ。そんな彼女が宜野座に正面切って「優秀な人材が引き抜かれて困っている」と言ったのだから相当参っているのだろう。

「活きのいい監視官が二人入ったから大変なんだろうな」
「また他人事みたいに……」
「実際他人事だろう?」
「あ〜、イラつく」

 最近1係に加入してきたあの監視官二人、あの二人は入庁決定からだいぶ話題になったものだが、入庁してからも話題をかっさらい続けている。霜月もかなり頭を悩ませているようで、名字は彼女の執務室に行く度に彼らの愚痴をよく聞いていた。

「……少し痩せたか?」
「少しだけ」
「あんまり無茶するなよ」
「監視官も執行官も足りなくて死ぬほど忙しいのどなた方のせいですかね〜」
「悪かったって」

 嫌みったらしく名字が言うと彼が苦笑いをする。こうやって軽口を叩き合うのも随分と久しぶりだった。職場が異なれば会う機会は減る。最近はわざわざ会いに行くほどの時間の余裕もない。
 まああんまり痩せられると抱き心地が悪くなるしな、とおもむろにぽつりと呟いたので名字が宜野座の長い脚に蹴りを入れた。

「ねえ今そういう話します?! これね、今無線入ってるので聞こうと思えば聞けちゃうんですよ?!」
「唐之杜、久しぶりに恋人と会っているんだ。少しぐらい見逃してほしい」
「もう本当に勘弁してよ……」

 はあ、とずるずると名字がしゃがもうとするとと大丈夫か?と宜野座が腰を寄せようとするが、勘違いされるからやめてくださいとぴしゃりと名字がはね除けた。勘違いもなにもそういう関係なのだが、名字としてはどうにも周りには内密にしておきたいらしい。

「宜野座さん公安局居たときはよかったんですよ、だって監視官が執行官宿舎に行ってもそこまで不自然じゃないじゃないですか。でも私が外務省行ったらもうばれちゃう……」
「もう既に勘のいい君の部下には気づかれているんじゃないか?」
「ぜったいばれてない、ぜったいばれてないです。私隠し通すの上手いですし」
「唐之杜と六合塚にはばれていただろう?」
「あの二人はおかしいんですって」

 唐之杜と六合塚については洞察力の鬼である。名字と宜野座がそういった関係になった日を寸分狂わず当ててみせたことからこの二人には全て筒抜けであると諦めの境地である。
 すっかりしゃがみこんだ名字に宜野座が覆い被さる。名字の細い手首に自身の手をあてがって、デバイスの電源をぶちりと切った。さらりとした宜野座の髪の毛が首に当たってこそばゆい。彼のにおいに包まれていた。するりと腰から太ももにかけてを撫でられてびくりと反応してしまう。吐息混じりの甘ったるい声。彼が耳元で密やかに囁いた。明後日の夜、部屋で待ってる。デバイスのスイッチがオンにされる。
 立ち上がった彼は、じゃあまた、とにやりと満面の笑みで言い放った。声にならない声が出るのは名字だ。しあさってはどちらもで非番であることは既にもう確認済みだ。休みが被って、久しぶりにそういう関係の男と女が会うとなれば何をするか分からないほど純情ではなかった。顔も体も火照っている。去り際の彼の目は獲物を食らう獣のような目だった。次に会うとき、きっと足腰が立たないぐらいに抱き潰される。心拍数128、デバイスがそう告げている。こんなことで興奮するなんて大概変態だ。








20191104
 



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