++もう子供じゃ無いよ/蒼井悠介


※非P。衣装担当


「悠介くん、大きくなったね」
「まだまだ成長期だからね!」

 腕の長さプラス2センチ、腰回りプラス1センチ、身丈プラス3センチ、肩幅プラス1センチ。悠介くんは会う度に大きくなる。

「あと採寸中くすぐったくて身を捩らなくなった」
「うーん、慣れかな」
「最初からこうだったら良かったのになあ」
「昔のオレがごめんなさーい!」

 互いに軽口をたたき合いながら採寸をする。こうやってリラックスして貰えるのも、彼がアイドルを始めてから、彼の衣装は私が担当しているから、ということもあるのだと思う。
 数々のアイドルを世に送り出す、315プロダクションでお仕事を貰い始めて早三年。服飾系の学校を卒業して入社して1年目。その当時私にとっての大仕事は、その年デビューするアイドルの衣装の作製だった。採寸、デザインから製作まで正直大変だったけど、確実に今の自分の成長にも繋がっている。
 次は足ね、とメジャーをざっと合わせる。よくよく見てみると、足も長くなったようで裾から足首が覗いている。まだ成長期が控えている人に関しては、後から手直しがきくように縫い代を多めにしているからまだ大丈夫だと思うけど、このペースで身長が伸びるならなら、この衣装も見納めかもしれない。

「えー、でもあんまり大きくなられると困るなあ、仕立て直さなきゃいけなくなっちゃう」
「オレもっとデカくなる予定だから覚悟しておいてね。目指せ先生追い越せ玄武、目標は高く雨彦って標語もあるくらいだし」
「え、まって、2メートル近くなるの……?」

 目標は大きく!、と悠介くんがにかっと笑う。2メートル近くなった彼を想像してみる。私の身長はそこまで大きくないから、採寸がとても大変になってしまう。ほどほどにお願いします、と苦笑いすると、彼は名前ちゃんはオレが大きくなるのいや?、と少し顔に陰りを見せた。

「いやじゃないけど、採寸大変になりそうだなって。あとせっかく可愛いのに……」

 今は悠介くんの身長はぐんぐん伸びているけれど、アイドルを始めたばかりの頃は私と何センチかしか変わらなかったから、可愛らしい男の子という感じだったなあ、とふと思い出す。目がくりくりしてて天真爛漫で元気いっぱい。あとは少しいたずらっ子。今もその印象はあまり変わっていない。身長が伸びて、少し大人びたように思えるけれどまだまだ可愛らしい、と思ってしまう。
 全てを測り終えて、用紙にそれを書く。次は享介くんだ、と思いながら立ちあがると立ちくらみがして思わずうわ、と声が上がってしまう。
 つま先が浮く。バランスを取ろうとして腕を伸ばすけれど、それも無駄に空を切って終わる。頭打つかも、と無意識に目を瞑った。

「……ッ名前ちゃん、大丈夫?」

 いつまでも衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると、彼に腕をぐっと握られ腰を支えられていた。急に立ちあがるから、と悠介くんが心配そうに言う。
 あれ、こんなに手は大きかったっけ。腰を支えてくれた腕も思ったよりもがっしりとしていてもう男性のそれだ。地に足が着いている状態で彼を見上げる。こんなに、身長高かったんだ。いつの間に、伸びたんだろう。

「あ、ごめん、大丈夫。ごめんね、重かったよね」
「いや全然、ていうか軽くてびっくりするぐらい」
「またまたお世辞を。じゃあ次享介くんだから、衣装は着替えて事務所のテーブルの上に置い──」

 メジャーや採寸用紙が挟んであるバインダーといった道具を持って部屋から出ようとする。享介くんが居そうな場所は、と考えていると、がしりと手首を掴まれる。

「オレって今も、可愛いだけ?」

 驚いて彼を見ると、目がじっと私を見据えて心臓が大きく跳ねた。初めて会ったときと比べて声も、少し低くなった。
 オレ、もう子供じゃ無いよ。
 名前ちゃん、私の名前を呼ぶ。
 どくん、と心臓が再び跳ねた。彼はアイドルで、私は一介のお針子にすぎない。そんな真っ直ぐとした目で私を見ないで。都合の良いように勘違いしてしまいそうだから。






 
お題箱より。蒼井悠介のお話。
20170803


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