++どこまでも打算的/ニコラ・フランチェスカ




※リリアじゃない




「……下にご飯を食べに来ないし、かと言ってどこかに食べに行くわけでもなく部屋でずっと仕事してるし、おかしいと思ったんだよね」

 コツンコツンと誰かが廊下を歩く足音がしたかと思えば、矢継ぎ早に名前居るかな入るよ、と心の準備もしないまま扉を開けられた次第だ。なので机に広がった書類の束も見られたくない諸々の物も隠す時間がまるきり無かった。
 ニコラは私がもっとも見られたくなかったそれを一瞥すると、大きくため息を吐いた。流石彼である。着眼点が鋭い。その察しの良さが嫌になるのは私だけではなくカポであるダンテもだろう。それに窮地を救われていることも多々あるものではあるが。

「マグカップにスープをいれて、バゲット丸かじりで食べる人間なんて初めて見たよ」

 私は特段顔を青くすることなく、堂々とした風を装って言った。まさかそれを言うためだけに来たんじゃないよね?、と。

「君さあ、三日もご飯食べに来ないってジュリアから聞いて急いで来たらこれだ。こんな食事ずっとしてるの? ジュリアが見たら卒倒するよ」
「仕方がないでしょ。仕事が終わらないの」
「だからって食事を疎かにする必要もないだろう」

 ジュリアの管轄である台所から料理をくすねてくるのは至難の技だが、私ぐらいになるとどうってことはない。元々内勤が多い身だ。誰がどの時間にどんなことをするのかは大体予想がつくし、この屋敷に出入りして長いジュリアについては、私が幼い頃からの蓄積された情報もある。彼女は決まって15時半になると、保存庫に夕ご飯に使う野菜を取り出しに行く。そういったときにくすねてしまえば彼女にばれずに済むのだ。
 ズカズカと部屋の中にまで入ってきたニコラは私のカップに触れると、案の定冷たくなっていることを確認して、ふーん、と思わせぶりな声を上げた。
 血筋を重んじるファルツォーネの組織において、私はダンテとニコラに次いでファルツォーネの血を濃く継いでいる人間の一人だ。なので女であっても優秀で仕事ができるのなら珍重される。女という性が縛るものもあれば血筋という伝統が縛るものもある。私はこの性のせいでファルツォーネという組織のトップやそれに近しい立場に立つことは出来ないが、血筋という伝統のおかげで仕事をすることは出来る。このご時世、女性の社会進出だなんてほど遠い。だけれど私はこの血筋のおかげでその真似事のようなことは出来ている。

「いつから寝てない?」
「どうして?」
「隈がひどい」

 ニコラは私の目の下の窪みを撫でた。その手を払って、仕事の邪魔、とぴしゃりと言葉を放つ。

「せめて銃撃戦は控えて欲しいな。修理の見積もり合わせから打ち合わせ、支払金額諸々の計算、私が何人居てもキリがないもの」
「……善処するよ」
「あとアラビアータ食べたい」
「それはジュリアに言っておく。今日の夜は僕も仕事が落ち着くから手伝うよ」
「私のことは私がするからニコラは休んで。あなたもここ最近忙しいでしょ?」
「名前って本当に鈍感だよね。恋人からの夜のお誘いなんだけど?」
「仕事が片づいたらね」
「二人ですればすぐ片づくよ」

 夕飯は食べに来てよ。みんな心配してる。ニコラは私のこめかみにキスを一つ落とした。

「ここに夕食を持ってきて、隣で甲斐甲斐しく食べさせてあげるのもいいけどね」
「ぞっとする話で笑えない」
「僕は本気だけど? その後丁寧に体を洗って髪を乾かして香油をつけてお世話をするのもいいね」
「美味しくなったところで食べるってわけね」
「そういうこと」

 それじゃあまた夜に、彼は名残惜しそうに部屋のドアに手をかける。








20200725
 



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