「んー、眠すぎて無理なので、30分ほど仮眠します……。お三方売店とか見ててください……」
私はくるりと横や後ろを見ながらそう言う。目がしぱしぱする。高速道路は見えるものが平淡だし、大体はアクセルを同じ圧で踏み続ければ良いこと、そして若干寝不足なこともあり眠気が誘われる。
「何か買ってきますか?」
「食べると眠くなると思うので大丈夫です……」
かみ殺せていないあくびをしながら柏木さんに言うと、彼がそうですか……、と少ししょんぼりしたように見える。車を降りる三人を手を振りながら見送りつつ、その後ろ姿が小さくなったところでふう、と息を吐く。席を後ろに倒して、腕を目元に押し当てた。
今月からアルバム発売に際したツアーが始まり、こちらとしては嬉しいながらもてんやわんやだ。特に今週は二回ライブが行われるということもあって、忙しさこの上ないのである。昨夜ライブを終え、荷物の搬出や次のセットの指示を出した所でもう夜中。ホテルに戻って寝る頃には既に今日だった。それから明明後日のライブのために今日は昼から移動である。一昨日昨日とライブがあったので、公共の交通手段を使うとファンの方々と会ってしまう可能性があり三人の気が休まらないかもしれない、との配慮で車移動。高速道路を走ったのは久しぶりで、がちがちに緊張していたので、隣のナビゲーターの柏木さんに心配されたのも記憶に新しい。
眠気で瞼が下りる。30分なんてあっという間なんだろうな、そう思いながら眠りに就いた。
・・・
車が揺れている。体勢が眠る前と違う。薄らと目を開けると、助手席に座る柏木さんと、ハンドルを持つ天道さんが見えた。私にはご丁寧にブランケットが掛けられていて、頭の下には枕のようなものがあるけれど枕にしては少し高いし硬い。足は床に着いているけれど、上半身だけ横になっている。この車は五人乗りだから、この枕の正体が誰なのかは安易に予想が付いた。前に居ない人物となれば。
「ん、ああ。起きたか」
天に感謝した。ありがとう薫さんの膝枕。たぶんファン第一号。この硬さのなかにある弾力と言い、ふわりと香るにおいと言いもう尊い。これを私が体感しているのだと思うと尊い。涙出そう。
桜庭さんの膝枕を噛みしめながら、まだもうちょっと堪能しておきたい、と思いつつ固まっていると、まだ寝ていろ、と優しく背を撫でられる。このまま死んでも悔いが無い。
「……天道さん、免許証持ってたんですか」
「一応身分証明書でもあるのだから、携帯していないと意味が無いだろう」
「なるほど……」
「柏木が下道にある団子屋に寄りたいらしい。飲み物と軽食を買っておいたが、食べるか?」
「今はまだ大丈夫です」
「わかった」
名前さん起きましたか?、という柏木さんの声が聞こえる。それに返事をした。
ここであることに気が付く。寝る前に目に乗せていた腕が取り払われている。下から桜庭さんの凜々しい顔のラインが見えて、それをじっと見ていると、彼が視線に気が付いたようで私と視線が合う。遮るものが無い。
「うわしにたい」
若干隈が出来ている不細工な寝顔を桜庭さんに見られていて、あまつさえこの私のそこまで軽いとは言えない体重を彼の足にかけているという事実に、もう一思いに殺してくれ、と思った。彼の膝から上半身を起こそうとすれば、彼ががしりと肩を押してまだ寝ていろと言っただろう、と語気強めに言った。たまらずに腕で顔を隠す。
「うわあ、ほんとに、本当にすみません。このアイドルの足に私の決して軽くは無い体重を掛けている事実……しかもコンディションが最悪な顔面……これを最推しの薫さんに一瞬でも見られていたという事実に心が死んでいます」
「黙って寝ていろ」
むぐ、と彼に口を押さえられる。天道さんが前から、そう言えばさっき翼が膝枕してる桜庭とされてる名前の姿前から写真撮ってたぞ、と言う。いつものお返しです、と事務所のカメラを掲げて朗らかに言う柏木さんの言葉に涙した。心にだいぶダメージを負っている。
20160602