「なんだか名前さん、みのりさんと同じにおいしますね」
柏木さんは大層鼻がきく。どれくらいきくかというと、事務所で私がおでんを食べていると、玄関先からそのにおいに気が付くくらい。あまり例えにはならないかもしれないけれど、とにかく彼の嗅覚はすごいのだ。
隣の桜庭さんがまさか、と訝しげな目で私を見る。それにぶんぶんと首を横に振った。
「そんな含みがあるように言わないでくださいよ! この前渡辺さんに、最近髪がごわごわしていてって相談したら、渡辺さんが使ってるトリートメント紹介されて、それで使ってるってだけなので! やましさは一切ないです!」
所属アイドルと恋愛関係になるなんてもってのほかだ。もしなったとしてそんなこと知られたら首が危うい。私が必死に弁解すると、桜庭さんの猜疑満ちた視線が弱くなる。
そうなんですか、と柏木さんが言う。そしてでも、と彼が言葉を続けた。私の肩口にまで背を屈めて、すん、とにおいを嗅ぐ。
「なんだかみのりさんより名前さんのにおいの方が、甘い気がします」
「え、何ででしょう。洗剤のにおいと混ざってるとかですかね」
「そういうのじゃなくて、うーん、」
「おい、」
桜庭さんが私にぴたりとくっついていた柏木さんを引き剥がす。
「柏木、名字は曲がりなりにも女性なのだから、気安く触れるな」
「はい……」
「桜庭さん、私めちゃくちゃ貶されてませんか?」
「君は危機感を持て。いくら仲が良いと言っても、柏木は男で、君は女性だ。事務所の中ならまだ良いが、外でもこんなことをしたら変な誤解を招かれることがあるだろう」
「はい、……」
桜庭さんの目が三角形だ。それに怖や怖やと私たちは肩を竦めた。
20170608