ひどい既視感/桜庭薫




※子宮がん検診はその手のAVに似ているという下ネタです。冗談半分に読んでください。












「この前、私健康診断でお休みしたじゃないですか」
「どこか悪いところでもあったのか?」
「いやまだ結果来てないので……」

 健康診断で何かあると、各々薫さんに相談する節がある。それは何も私に限ったことではない。健康診断の季節になると、事務所内に薫さんに向かって列の形成がなされるのだ。コレステロール値を血液検査までにどうにか下げたいだとか、最近高血圧気味だとか、最近心臓が妙にどきどきするだとか。健康診断に引っかかりたくないというのは分かるが、日頃からどうにかしておけという話である。ちなみにその時の相談者については個人情報なので他言を控えるが、その時の薫さんと言ったら、もう若くないのだから脂質の摂取を控えろ、野菜中心塩を控えた食事にしろ、ただの運動不足だ、の一刀両断だった。その時の雨彦さん、みのりさん、次郎先生の姿が瞼の裏に浮かんでくる。あっ思わず口が滑ってしまった。
 そんなこんなで健康診断絡みで薫さんに相談するときは、彼もなんとなく良くない報告であると分かっているのだと思う。残念ながら、いや残念ではない。私が言いかけたのは断じて、自身の身体の不調ではないのだ。
 それでは何の用件だ、と彼が呆れたように尋ねる。左手には淹れたばかりのコーヒー。ぎしりと私の隣の事務椅子に腰を下ろして彼が足を組んだ。なんだか既視感がある光景である。何度かしたことがあるからだ。

「子宮がん検診、あれ完全にAVじゃないですか?」

 コーヒーを口に含んだ薫さんが咽せた。

「……君は恥じらいという言葉を知らないのか?」
「いやまって説明させてください」
「聞きたくない」
「それ私が痴女みたいじゃないですか! お願いです、説明させてください! 子宮がん検診って、下半身完全に無防備な状態で台乗せられて足がぱっと開いて、仕切りがあるので相手が何してるのかそのまま検診されるんですけど、これどっかで見たことあるなって思ったらもう完全にAVだったんですよ!」
「……それで、僕はどう反応すればいいんだ?」
「同意の言葉が欲しいです」

 はあ、と彼が深いため息を吐いた。眉間に皺が寄っている。それを指摘すると誰がそうさせていると思っているんだ、との返答だ。私である。

「検診の仕方としては些か落ち着かない感覚はあっただろうが、仕切りも検診する者を配慮するものだ。もちろん仕切りは要望があれば外すことも可能であるし、まあ確かに君がアダルトビデオのように感じたことは一理あったかもしれないが、」
「やば、薫さんの言うことが支離滅裂というか繋がりがぶちぶち切れたまま何か発言するってすごく珍しくないですか? あと顔のいい人がアダルトビデオって言うのやばいですね破壊力が」
「元はと言えば君が、AVだとなんだと騒、……!」

 翼押すなって、うわああ、という声がドアから聞こえて二人でばっと振り向く。お互い扉の先を凝視する。これはどこから聞かれていたんだろう、薫さんと私、双方に変に嫌な冷や汗が垂れる。

「──桜庭、お前いくら名前だからとは言え、流石にAVの話を振るのはどうかと思うぞ。しかも結構アブノーマルな……」
「誤解しないでくれ、話を振ったのは名字だ」
「てっきり桜庭の趣味がそういうやつだって翼と……」
「断じて違う」
「薫さんは悪くないんです! どちらかと言えば私が? そういう話を、振った……? と言いますか、というかお二人ともどこから聞いていたんですか?」
「薫さんが検診の仕方として、と言ったところから……」
「名前から振ったってそれ……」

 妙に間の悪いところから聞いている二人である。というか完全にこれは私の落ち度だけど、この話をし出すと完全にセクハラである。どこからどう話せばつつがなく伝えられるのだろうか、と考えるもそれは無理のようだ。ごりごりと心が削られていく。






20180817

top