下品な話/DRAMATIC STARS *


※すごく下品



 名字が酔っぱらってきた。普段は翌日も業務があるし、所属のアイドルと飲むということであれば、いくらか飲酒量に制限をかけている彼女ではあるが、大きな案件を終えて気がおおらかになっているらしい。柏木から勧められた日本酒を口に含み始めた頃から目が座っている。
 はあ、と彼女が深いため息をついた。それにペース配分がうまく行っているのか、まだ彼女よりかは酔いが回っていない天道がどうしたんだ、と尋ねる。

「これはずっと気になってたので、教えてほしいんですけど」
「ああ」
「おっぱいって触られても気持ちよくないですよね? なんで男性っておっぱい揉みたがるんですか?」

 噎せた。
 気管に入った酒をごほごほと外に出させる。どうやらそれに噎せているのは僕だけではないらしい。せっかくの酔いが一気に覚めた。
 普段、接待で酔いが回ってもこんな発言をしているところをみたことがないのだが、やはり彼女としても気が緩んでいるのだろう。とんだ爆弾発言だった。

「気持ちよくないのか……」
「はい。気持ちよくないです」

 天道と名字の応酬が聞こえる。やはり天道もだいぶ酔いが回っているらしかった。ここが個室でよかった。そうでなければこちらが羞恥心でどうにかなっていそうだ。

「じゃあ触られて声がでてるのは」
「乳首なら個人差あると思いますけど、乳房の方は完全に演技です。だって自分のおっぱい触ってみてくださいよ。全然気持ちよくないじゃないですか。あれは揉む側が気持ちいいだけです」

 そこで再度お聞きするんですけど、どうして男性って執拗におっぱい揉もうとするんですか?、名字が淡々と尋ねた。
 こうやって酔っ払った彼女に、酔っているときのことを尋ねても大半は覚えていないので尚更たちが悪い。先日の泣き上戸と絡み酒はしかり、ここまで何も覚えていないとある意味幸せ者なのではないかと思ってしまう。

「そこに胸があるからか?」
「わかる〜。私も合法的に揉んでいいおっぱいあるなら揉みますもん」
「あと自分には無いもんだからかな」
「もうひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「0.01ミリの違いってなんなんですか? やっぱり0.01ミリ違うと気持ちいいものなんですか?」

 とんだ爆弾が落とされる。冷や汗が出てきた。この会話を名字が覚えていないのが本当に苛立つし、本当に良かったと思う。酔いが覚めて覚えていたらだいぶ恥ずかしくなる話のフリだ。もしかしたらこれが彼女、一般的な女性の本性なのかもしれないが、そうでないことを信じたい。こんな話をおおよその飲み会でしていると言うならだいぶエグい。
 隣の柏木を見るが、時折グラスを傾けるだけだ。柏木は酒に弱いわけではないから、おそらく頭がしっかりしている状態でこの話を耳にしているのだろう。普段からこの手の話を苦手にしている柏木のことだ。青ざめているのかと思っていたが、いつも通りの表情をしていた。

「入れられる側としてはそんなの分かんないじゃないですか? ただたかが0.01ミリの差で値段がだいぶ違うので、それに見合った気持ちよさがあるのか不思議なんですよね」

 そろそろ名字の手元にある酒を水にすり替える必要があるのではないか。天道や柏木の表情を伺おうとするも、彼らもだんまりしている。流石に話しにくいということなのだろうか。名字にそろそろ酒を飲むのを止めるように言おうとすると、薫さんは、という言葉に遮られる。

「薫さんも気持ちいいと思うんですか」
「は、」

 いつになく真剣な名字の視線が送られる。0.01ミリの方が気持ちいいって思うんですか、追い討ちのようなその言葉に、どう返答しても地獄になることは知っている。若干目を泳がせながら、どう返答すべきか考えあぐねていると、名字の隣に座っていた柏木が、閉ざしていた口を開いた。

「オレの個人的な感想ですけど、」
「柏木?!」

 どうやら酔っぱらっていたのは天道と名字だけではなかったらしい。柏木の口を塞げ、と天道に言ったが、面白そうじゃねえかと天道はゲラゲラと笑うだけだ。天道も柏木も、とれだけ酒を飲んでいても結局は記憶に残るのだ。オフの明日はともかく、それから顔を見合わせるのはしごくまずいことになる、と脳が警鐘を鳴らしている。







20181015

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