嬉しいんだか何なんだか/桜庭薫



 アイドルだけでも46人の大所帯。一ヶ月がおおよそ4週間で構成されているとするとして、一年は48週間ある。つまり大体、一週間に一度は誕生日ケーキを食べることになる。

「やはり君は食べない方がいいんじゃないか」
「いやいやいや」

 目の前にあるくまの形をしたケーキを名字がどう切ろうか悩んでいたところで桜庭の言葉がそれである。
 キャラメル味の生クリームはほろ苦さと控えめな甘さのある大人の味。かおるくんお誕生日おめでとう、と書かれたプレートを慎重に桜庭の皿に乗せた。

「やです」
「糖分の摂りすぎだ」
「人間はなにで生かされていると思ってるんですか。炭水化物ですよ」

 中には相性のよいバナナとカスタード、濃厚キャラメルソースがふんだんに使われている。可愛らしい見た目とは裏腹にコーヒーがよく合う味をしていると太鼓判を得ているケーキである。監修が卯月、作ったのが東雲と天道と言うのだから間違いない。甘ったるいものが不得手な桜庭も気に入るだろうという寸法だ。

「顔だから、こう真っ二つに切るのは良心が痛むと言いますか……」
「そんなことを考えていたらいつまで経っても食べれないだろう」
「いやあ、でも……」

 目と鼻を避ければいいんじないか、と桜庭がフォークで目と鼻を一緒くたにしてくまの右耳近辺に寄せた。

「等分するのは中々骨が折れるな。この際耳も潰して……」
「人の心無では……」

 テーブルの上にあったナイフを手に持つと桜庭がまず半分に切った。それにあああ、と呻き声をあげたのは名字だけでなく、固唾を飲んで見守っていた天道と柏木もである。これしか方法がないだろう、と桜庭が言いながら更に切り分けていく。

「君の取り分はこれだ」

 本日の主役に自身の誕生日ケーキを取り分けさせるのも何だとは思うが、それが彼の望んだことなのだからしょうがない。桜庭が名字に手渡した皿の上にちょこんと乗せられたケーキはどうみても一口サイズである。

「人の心……」
「ケーキがあるだけいいだろう。譲歩はした」
「名前、俺のケーキいるか?」
「仏……?」
「やめろ天道、名字を甘やかすな」
「慈悲がミジンコ……」







20190928

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