小話詰め/桜庭
会話文多め
間が悪い
「抱かれたい男、二位、わかりすぎる」
自社のアイドルが出る雑誌の見本をいただく。その際に中身を確認するのも仕事のひとつである。表紙は天道さんで、寝転がった色っぽい姿だ。
うちの事務所からも何人かランクインしているそのランキングである。
ぺらぺらとページを噛み締めながら捲る。あんな寒い洒落ばかりを連発している男が、と桜庭さんなら言いそうなセリフであるが、そのギャップがいいのだ。女性的には。
ランキングについては抱かれたい男以外にもいくつか掲載されている。ふと桜庭さんもどこかにランクインしているかな、と目で追う。
「……まあ桜庭さんってどっちかというと抱かれたいより、愛人にしたい枠1位……」
「誰が何だって?」
「ヒィッ!」
同伴健康診断
最近風邪気味なんだよなあ、とぼーっとする頭でキーボードを打つ。学生の頃は馬鹿は風邪を引かない、そのままの通りの健康体であったのに、最近は体がてんで弱ってきて歳を感じずにはいられなかった。
ざらざら、と机の上にサプリメントを出す。最近忙しさで自炊をまともにしない生活をしているせいかもなあ、とは算段がついている。顎にニキビがひとつふたつ。完全に体が不調である。複数のそれを水で流し込んでいると、ピエールさんが衝撃的な顔をして泣き出しそうになりながらデスクまで近寄ってくる。
「プロデューサーさん、からだどこかわるい? ダイジョウブ、?」
「全然! 体は大丈夫です!」
「ほんとう?」
「本当!」
「でも顔色、よくない」
彼が私の顔を覗きこむ。そしてこういうときの常套手段だ。かおる!、と一番呼んでほしくない人物の名前が呼ばれて、条件反射でそそくさとサプリメントの袋を隠そうとしたが時は既に遅しである。
「プロデューサー」
「ハイ」
「必要な栄養素は」
「食事で補え」
「分かっているなら何故それが出来ない」
「スミマセン」
「君は毎食毎食カップ麺、ゼリー、バーばかりだな。健康診断の結果は」
「…………………要検査」
「行ったのか」
「…………行ってないです」
「本当にッ、君は!」
怒号が鳴り響いた。気が遠くなるようだ。聞いているのか、と彼がまた怒鳴った。
ドナドナ
「えむりむりやだ行きたくない」
「君以外は駄々をこねずに行っているが」
「軒並み行った人間全員、今年の予防接種腫れたとかすごい痛いとか言ってるんですけど」
「それが行かない理由にはならないが」
「え〜やだやだやだ、むりどうせ痛いなら桜庭さん予防接種してください」
「何故僕を指名するんだ」
「知っているひとから予防接種された方がまだ痛くても我慢できるので……」
「…………僕も現場を離れて久しいからな、腕が鈍ってもしかしたら失敗して腕を二倍ぐらいに腫らせてしまうかもしれないな……」
「………………はあ……行くか〜」
「最初からそうすればいいだろう」
次回はご用意されてやる
「この前SNSで仲良くしてる子がライブのチケット当ててたので連番して客席で見させて貰ってたんですけど、その子に315プロのプロデューサーだと先週の熱血大陸の映りこみでばれまして、一緒にご飯食べに行ったんですけど」
「三点ほど言いたいことがあるが、続けてくれ」
「いや〜ほんと315プロのライブ当たんなすぎなんですよね。CD先行もDVD先行もファンクラブ先行も当たらなくて、もう315プロのライブ見ようと思ったらキャパどこのアリーナでもドームでも足りないんですよ。
開催場所地球にしましょうよ……」
「どこでライブをしようと開催をしているのは地球だろう……」
「確かに……」
「それでそのSNSというのは」
「私315プロ所属アイドルへの愛を語るだけのSNSを持っているんですよ。あれ、言いませんでしたっけ?」
「初耳だな」
「そうでしたっけ? 最終的にその子とはご飯食べた帰りにコンビニで買ったワンカップ片手に公園で自担が出るライブのチケは自分の力で引きたい、という話をして解散しましたね」
「ワンカップの威力がいささか大きすぎるな」
20191102
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