暗記/DRAMATIC STARS
事務所のホワイトボードに貼り付けられたスケジュール表をじっと見る。大まかな予定としては、これから撮影で、そのあと15時からインタビュー。夜はボイストレーニング。それらの中に移動時間の目安や、入りの時間などが積み重なっているので、確認する量も膨大だ。それに今日になって変更になった箇所もいくつかあるので、もう分からない。私は自分の手帳に貼り付けたスケジュールをちまちまと直す作業を止めて、スマートフォンを取り出す。
「──名字」
「あー、ごめんなさい! 今行きます!」
撮影用の服に着替えた桜庭さんが私の名前を呼ぶ。あとで照らし合わせて頭の中に叩き込もう、と若干諦めて、私が写真をぱしゃぱしゃと撮る隣で彼が、その紙のスケジュールを一瞥する。
「撮影の入りの時間が5分早くなったな。今日は混みそうだから、早めに行った方が良さそうだ」
「え、桜庭さん覚えてるんですか」
「あの程度の文量なら覚えるのは苦では無い」
行くぞ、と彼がすたすたと車に向かう。最後の一枚を撮り終えて私も足早に彼の後につく。天道さんや柏木さんは先に車に乗り込んでいる。桜庭さんは助手席に座った。名前さん、入りの時間早くなったから急がないと!、と柏木さんに言われる。鍵を車に差し込んでアクセルを踏んだ。
「まって、ちょっとまってください、スケジュール覚えてるんですか?」
「? はい。さっき少し確認したので」
「名前、そこの道右折。まっすぐ行くと混む」
「あ、はい」
「結構スケジュール変わってましたね。インタビュー16時からになってましたし、撮影押しそうですからちょうどいいかもですけど」
「ああ、だが夜のレッスンに響きそうだな」
「まあ大丈夫じゃないか? あの雑誌の人、インタビュー上手いからすぐ終わるだろ」
頭上で交わされる言葉にちんぷんかんぷんだ。やばい全然ついていけない。声に出して言いたいけれど、私が馬鹿すぎるということではなく、方や元医者、弁護士、パイロット、頭の出来が違いすぎるのである。
「名前、次真っ直ぐだ」
「はあい……」
こんな所で自分と彼らの出来の差を認識したくなかった。まさか頭の記憶の容量でそんなことに気が付くなんて。
黙って彼らの会話を聞く。いつもとは違う私の様子に桜庭さんが勘付いて口を開く。
「そもそも君は僕たちの他に確認しなくてはならないユニットもあるから、気落ちすることはないだろう」
「桜庭さんのフォローが今は辛いです……」
20160615
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