特別がいい/蒼井享介

「蒼井さんいます?」

 レッスンルームにひょこりと顔を出したのは名前さんだ。名前さんはこの315プロダクションのプロデューサーで、俺たちをプロデュースしてくれる人。
 名前さんの呼びかけに、はーい、と二人で返事をすれば、あっ、と名前さんが声を出す。間違えた、えっとまず最初に悠介さんお願いします!、と彼女が訂正する。
 悠介は小首を傾げながら(あの顔は、オレまずいことしたかなあ、と思っている顔だ)、名前さんの元に向かう。悠介さん少しの時間お借りしますね、という名前さんに、俺も分からないなりにはーい、と返事をする。
 先ほどまでダンスの確認をしていたけど、悠介がいないと出来ないし、少し休憩しようかな。壁際に寄りかかってスポーツドリンクを飲む。渇いた喉に流れると、染みこんでいくような気がした。
 名前さんは頼れるプロデューサーだ。年齢は俺たちよりも年上。自他共に認めるこのプロダクションのアイドル好きで、一番推しているのはドラスタの薫さん。そこが俺たちじゃ無いのは少しむっとするけど、薫さんが素敵な人だと分かっているからそれを頭ごなしに否定することは出来ない。とても周りを見ていて気遣いをしてくれるし、あとは他の皆には内緒ですよ、と少し悪戯っ子のように笑いながら、差し入れのおやつをくれたりする。言葉は悪いけど、悠介はすっかりと買収されていて、名前さん!名前さん!、と仕事が一緒になるときはいつもくっついて回っている。それに邪魔になるから、と引き剥がすのは俺の役目だ。

「享介! 次!」

 がちゃりと扉が開いて悠介と名前さんが戻ってくる。いったい何したの?、と悠介に問えば、すごい驚くよ!、と言うだけで教えてくれない。不思議に思いながら、享介さんこっちです、と言う名前さんの後に着いていくと、事務室で、そこで名前さんのデスクに上がっていたものを手渡される。

「次のライブの衣装完成したんです! 格好いいですよね!」
「へえ、今までの衣装とはちょっと違う雰囲気だね」
「そうなんです! 青を基調としていて、あと襟もあるからWにとっては少し新鮮かなって。変なところは無いか、衣装の確認をしたいので」
「おーけー、着替えてきますー」

 名前さんから衣装を受け取って、更衣室に向かう。着替え始めると新しい服特有の少しちくちくした感覚がするけれど、我慢。そのまま彼女の元に向かう。

「どうですか?」
「ちくちくする……」
「それ悠介さんも言ってました」

 名前さんが笑いながら服を正す。襟を直して、裾から出ているシャツも。こうして向かい合ってみると俺とあまり身長が変わらない。それに借りられた猫のようにじっとする。

「腕を少し動かしてみてください」
「はーい」
「少しステップ踏めます?」
「はーい」

 名前さんの言うとおりにしていると、彼女が笑った。

「どうかしたの?」
「享介さんも悠介さんも同じ動きするから、流石双子だなって」
「まあさっきまで練習してた所だから」
「その言い分も一言一句同じですよ。何か違和感あるところとかあります?」
「ない!」
「それじゃあ以上です、ダンスの練習の邪魔をしてしまってごめんなさい」

 着替え終えたらデスクに置いて貰えると、と彼女が言う。

「ねえ、名前さん」
「ん、なんでしょう」
「名前さんってどうして仕事中は俺たちのこと名字で呼ぶの?」
「……うーん、あんまり気安い呼び方をすると公私混同ですし、あと享介さんたちも嫌じゃ無いですか? あくまで対等な関係でありたいんです」
「俺はそんなこと無いけどなあ、名前で呼ばれた方が嬉しい」
「まあ享介さんたちは双子で同じ名字だから、名前で呼ぶってことになってしまいますけどね」
「ファンの時みたいに、くん付けでも良いのに」
「それはお仕事終わってから」

 名前さんが仕事中に名前で呼んでくれるのは特別な感じがして好き。だけどそれだったらアスランさんやピエール、悠介も同じだ。そうじゃなくて、彼らとは一線違う呼び方をして欲しいと思ってしまうのは、欲張りなのかな。






20170618

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