「うわ、みのりさんがすごい女子力高いもの作ってる…」
ざくざく、と給湯室からリズム良く野菜を切る音が聞こえて、名前は思わずひょこりと顔を出した。そうすると見えたのは、みのりがたくさんの野菜を数センチ角に刻んでいる姿で、刻み終わったものは皿の上に縦一列に綺麗に並んでいる。
「名前も食べる?」
「え、良いんですか……!」
こっちこっち、と手招きされて名前は給湯室へと足を踏み出す。
この場所は、事務所の人間なら誰でも使えるようになっている場所で、普段は来客時のお茶の準備などをするために使われる。しかしお皿や単身用の冷蔵庫、三口コンロを見る限り、ただの給湯室にしては少し豪華なのだ。冷蔵庫の中には、皆が持ち寄った、もしくは置いていった食材が入っていることが常で、名前が書いていなければ自由に使って良いことになっていた。
「何作ってるんですか?」
「コブサラダ」
「おしゃれなやつじゃないですか」
何かお手伝いしますよ、と名前が腕まくりすると、それじゃあチーズを出して、とみのりからの指示が飛ぶ。それにはあい、と手を洗いながら名前は気の抜けた返事をした。
「プロセスとカマンベールどっちですか?」
「賞味期限が近い方で」
「それじゃあカマンベールですね」
取りだしたチーズの銀紙を外していると、次はサラダチキンの包装を外して、という指示が飛ぶ。次はトマト、アボガド、ゆで卵。皿の上には賽の目状に切られた食材がぎゅうぎゅうと入っていた。
「うわ、すごいボリューム」
「でも恭二とピエールなら食べるかなって。育ち盛りだし」
「ですね。これならタンパク質も野菜も摂れてバランス的にいいなあ」
「そうそう。あの二人、若いっていうのもあると思うけど野菜あんまり摂らなくてさあ。見てると心配になるんだよね。また今日もおにぎり?、みたいな」
「普通におかず買うと高いですもんね。あと炭水化物はお腹にたまるから正義って感じしますし」
「まあ値段も考えちゃうの分かるんだけどね。やっぱり身体のこととか心配になるから、たまに作るのもいいかなって」
みのりさんお母さんかな、という言葉を名前は舌の根でぐっと堪える。
「名前は? さっきまでパソコンと睨めっこしてたけど?」
「今社長に経理の確認していただいてるので、あと1時間くらいはすることないんですよね。なので遅めのお昼ご飯です。これから」
「それじゃあ一緒に食べない? 名前の小皿に移そうと思ったけど、一緒に食べた方が美味しいよね」
「えっ! いいんですか! そうします!」
冷蔵庫からドレッシング、棚から小皿4枚とフォーク4つお願いします−、というみのりの言葉に名前はドアの脇からドレッシングを取り出して、棚から小皿とフォークを出す。
「名前はお昼何食べるつもりだったの?」
「……スープはるさめです」
「昨日もそうだったよね」
「最近太ったのと、あとご飯作るの面倒で……」
「過度な食事制限はだめだよ」
お腹は?、みのりの問いかけに名前はめちゃくちゃ空きました、と返答する。みのりは皿に乗せられたものをいくつか摘まんで名前の唇に押しつけた。
「サラダチキンおいしいアボガドもきゅうりも久しぶりに食べた……。ただ切っただけなのにおいしい……」
「まあいつも食べてるサラダとは違う感じするよね」
「みのりさん、あんまり摘まむと二人にバレますよ」
「大丈夫、最後は混ぜるから」
みのりもまた皿から摘まむ。摘まんだところからは皿の地の色が覗いていた。それを隠すように揺するが、若干その部分が他の部分と比べて薄らいでいるのが分かる。
「もし気が付かれたら、名前がつまみ食いしたってことにしよう」
「みのりさんも同罪じゃないですか……!」
少し声を張って言った名前にみのりがくすくすと笑った。歩くたびにかちゃんかちゃんと皿とフォークが擦れ合う音が廊下に響いている。
20170706