名前ちゃんは身だしなみに厳しい。シャツが飛び出していたらきちんとスラックスの中に入れるように言ってくるし、ボタンも第二ボタンまではつけろと再三言ってくる。あとスラックスからパンツが出ていようものなら(見せパンなのに)、実力行使でスラックスを引き上げにかかる。
ここは男所帯だし、変にはだけた格好でウロウロされると目のやり場に困るというのもあると思うけど。たぶん名前ちゃんが居ないと今でもギリギリなのだから、事務所内は無法地帯になっているに違いなかった。ジュンっちとかナツキっちとかは関係ないと思うけど、オレとかハルナっちとか、あと悠介っちとか虎牙道あたりもヤバい。
「うわー! ごめん! 横着して積んでたから!」
「オレが倒しちゃったのも悪いっす」
名前ちゃんのデスクに積まれたはがきの山。挨拶に彼女のデスクに寄ったら、リュックのキーホルダーがぶつかって、良い感じでバランスを取っていたその山を崩してしまったのだ。申し訳なく思いながら拾い集める。
暑中見舞い、と書かれたそれにはプリントされた文章と、あとは彼女の筆跡で短い文章が連ねられている。散らばったはがきの裏面には会社名や企業名が書いてあるけど、それはほとんどオレが見知った名前だった。それもこれもオレたちがCMを担当した会社やいつも撮影でお世話になっているところで、オレたちの見えないところで名前ちゃんが裏で色々としてくれてるんだなって思った。
散らばったはがきを集めて同じ方向に揃えて名前ちゃんに手渡そうとすると、彼女もしゃがみながら同じことをしている。名前ちゃんが目と鼻の先ぐらい近くに居る。名前ちゃんは良いにおいがする。ハイジョのメンバーに冗談とかノリで抱きしめたりするけど、そういう時の洗剤とか柔軟剤とか制汗剤のにおいじゃなくて、甘いにおい。あと捲った袖から見える腕とか、全然筋肉が付いているように見えなくて、白くてふにふにしていそうだ。第二ボタンを外したワイシャツの合間から見えるのは、普段日に当たっていない白い肌と、あと黒の、キャミ……? じゃない。谷間が見えてる。黒の、ちょっとレースがついたブラジャーだって気が付いて、心臓がドッドッドッ、とうるさいほどに騒ぎ始める。彼女はそんなオレの動揺を露知らず、はがきを揃える作業をしている。
「……名前ちゃん」
「ん、なんでしょう」
「下着、見えるんっすけど」
「あっ、ほんと?」
飄々とした表情で名前ちゃんははがきの枚数を数え始める。上が黒なら下も黒なのかもしれない、とつい想像してしまって顔がじゅわっと熱くなるのを感じた。白い肌とは対照的な黒が頭の中にこびり付いている。オレはなるべく視線を逸らしながら、再度彼女に言う。
「名前ちゃん、下着……」
「屈んだ時にしか見えないし良くない?」
「良くないっす! 全然良くない!」
「ボタン締めると暑いし苦しいし」
「なんなんっすか! 名前ちゃんいっつもオレたちには身だしなみちゃんとしろって言ってるのに!」
「ちゃんとしてるでしょ。屈んだときに少し見えるだけで」
「あー! もうダメっす! レッドカード!」
彼女のボタンをつける。その際に手が触れて、柔らかい感触にびっくりしたけど、それを何とか悟られないようにする。名前ちゃんは、えー、と不満げに言うけれど、その声には耳を貸さない。
絶対第二ボタンまで外さないこと!、と彼女に釘を刺すように言えば気の抜けた返事が返ってくる。手の甲で感じた柔らかい感触とか、目に焼き付いた白と黒のコントラストとか、いったいどうすればいいんだろう。これから何日間は絶対練習とか勉強が身に入らないと思う。
20170731