おかかおにぎり/鷹城恭二



「名前さんの作るおにぎりって、少し大きめでいいよな」

 恭二がぽつりと呟く。彼の手には一口食べた、冷蔵庫の中身の整理を兼ねて名前が作ったおにぎりを持っていた。
 事務所のテーブルの上には、お皿に一つ一つラップで丸められたおにぎりが何個も綺麗に並べられている。そこに「冷蔵庫整理しました。自由に食べてください」とのメモ帳がぺたりと貼られている。おにぎりが山ほど乗った皿の隣には、タッパーに詰められたおかずの数々がある。
 全ての発端は、冷蔵庫にプロダクション内で使う氷や水といった日用品を買い足した名前によるものだ。飲み物に入れるため、レッスン中に捻挫などの怪我をしたときに冷やすための氷を全部使い切ったとの報告を受けて名前は買い出しに向かった。最近はダンスレッスンに力を入れているし暑い日も続いているので多めに氷を買った方がいいのかもしれない、と買い物袋いっぱいに氷を買った名前が、いざ事務所に戻って冷凍庫の中を開けると、食材が多すぎて入りそうに無い現実がそこにあった。しかし氷も外に出していれば溶けてしまうし、これからこれらのものが一回で消費されるようなことはまず無いと踏んだ名前は、冷蔵庫の中を整理するしか道はあるまいと決断したのだった。

「やったー、ありがとうございます。めちゃくちゃあるので、どんどん食べてください」
「ん、食べる」

 名前を一番悩ませたのは、冷凍庫に眠っていた大量の冷凍ご飯だ。皆ごちゃごちゃとした冷凍庫の中を見る前に次のご飯を炊くので、余ったご飯は冷凍庫に放り投げられ、そしてまた冷凍庫にご飯が増えるという負の連鎖だった。冷凍庫に物を入れるときは日付を書くように口酸っぱく言っているので、極端に古い物は取り除いて、温め直しておにぎりを作って消費させようと言う考えだった。今現在はすっかりとかさばるご飯が全て消えた。
 大量のおにぎりやおかずを作っているときに思ったのは、プロデューサーをしているのにどうしてこんなことを自分はしているんだろう、ということだ。もちろん全ては冷蔵庫を整理して氷を入れることでアイドルたちの体調管理や健康管理に繋がるということだが、給湯室という密閉された、まあまあ暑い中での料理というのも中々に骨が折れるものだった。全てが終わったあとは疲労感でいっぱいで、これを二度とするものかと冷蔵庫に「私物化厳禁。即消費」とマッキーででかでかと書いた紙を貼った。

「名前さんは食べないのか?」
「作ってるとお腹いっぱいになるので……」

 明後日の方向を見ながら名前が言う。もうおにぎりは向こう一カ月は食べなくていい。
 ははは、と乾いた笑い声をあげる名前に、恭二はせっかく美味しいのに、と言った。その言葉は確かに嬉しいのだが、使い果たした体力を考えると少し複雑である。
 ぱくりぱくりと大きな一口で食べる恭二を眺める。食べ方といい、その食べ進め方といい、男の子なんだなあ、と名前は思わず思ってしまう。
 事務所の階段を駆け上がる足音が聞こえる。この時間帯だとハイジョーカーの面々だ、と名前は見当付ける。おつかれさまっすー、といつもの元気の良い声が響いて扉が開け放たれるのと同時に、なんだなんだと机の上に上がった大量のおにぎりに目が行ったようだった。ご自由にどうぞー、と名前が言うとまるでハイエナのように群がる五人だ。いただきます、とそれぞれ声が聞こえて、すっぱ!、と叫んだ。どうやら梅干しに当たったらしい。

「おにぎりって味何種類かあるのか?」
「四つぐらい作った気がするけど、場所覚えてないや、ごめんなさい」

 恭二が一つ目を完食して二つ目に手を伸ばした。ラップを開けてぱくりと食べると、少し目を見開く。そのままもぐもぐと咀嚼をして、おかかだ、と微笑んだ。






20170927

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