カップラーメン/山村賢
午後10時。夜中に食べではいけないもの個人的第一位に君臨している、かのものを名前は目の前にしている。ごめん明日の私、そう名前は思いながら薄いビニールをぴりぴりと破いた。
「名前さん太りますよー」
「うるせー! と言いたいところですが、その通りなのでそのお言葉胸に刻んでおきます……」
原因の発端は賢であるが、その確認をしなかった自身にも落ち度があるのだと名前は重々理解していた。急遽提出しなければならない書類があることを二人ですっかり忘れていたのだ。それに気が付いたときの二人の顔と言ったら悲愴感に満ち満ちていた。気付いたその時、既に午後7時。残業どころか徹夜も危ぶまれていた。
「山村くん、終電前には帰っちゃってください。あと残り私やるので。明日も授業あるでしょ?」
「えっいいんですか、ありがとうございます! と言いたいところなんですけど、九割九分僕のせいですし、あと明日全休です」
デスクは隣同士。名前は思わず賢の手を固く握った。
「でも絶対終電前には終わらせましょう」
「徹夜すると厳しいですもんね。心と身体が」
「すっごい分かる」
はは、と乾いた声で笑い合う。双方目は笑っていない。
電気ケトルのお湯を注ぐ。ぐわ、と空いたお腹を刺激してくるチープなにおいがなんとも言いがたく良い。それに賢もまたお腹の虫が刺激されたのか、ぐうう、と情けない声を上げた。一瞬の間、名前がすっとデスクの下から何種類かカップラーメンを取り出す。
「ありがとうございます! ……今シーフード食べたらカロリー的にやばいですかね」
「それ今シーフード食べようとしてる私に対する戒めですか?」
「罪悪感が低い塩味にしますね」
「男は黙って醤油豚骨」
賢の目が左端の醤油豚骨に泳いだのを名前は見逃さなかった。一緒に仕事をし始めていくらか経つ。しかも机が隣同士、している業務も一部被っているとなれば最早相手のことは手に取るように分かった。
「名前さん……」
「1日ぐらい不摂生しても大丈夫ですよ、たぶん」
「……そう思うことにします」
ぴりぴりと彼が包装を破き始める。電気ケトルと割り箸を名前は賢に渡した。
20170929
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