さつまいもの蒸しぱん/桜庭薫

 賞味期限間近のホットケーキミックスと、先日焼き芋をしたときに余ったさつまいもがあるとなると、何を作ろうかということは自ずと決まってくる。お腹も空いたし、あとは事務所に帰ってきた他の人達も摘まむだろうし、ちょうどいいから蒸しぱんを作ろうと名前が思ったのはついさっきだ。

「……君は何をしているんだ」
「お疲れさまです、桜庭さん」

 確か今日はサイン会のはずだ、と名前は考えを巡らす。他の二人は、と言う前に、天道と柏木はコンビニに向かった、とのことだった。

「なぜまた」
「腹が減ったんだそうだ。天道も柏木も、弁当を食べたというのに」
「今回、イベント踊りましたよね。動くイベントだったら、お腹空くのも仕方が無いかも」

 それならちょうどいいかもしれません、桜庭さんもどうですか?、と出来たてほかほかの蒸しぱんを名前は彼に差しだした。小ぶりな紙コップに、ごろごろとしたさつまいもと、ホットケーキミックスを入れて蒸すだけの簡単なおやつだ。丸みを帯びたてっぺんがぱっくりと割れている。味はついていないから、個人の好みではちみつやメープルシロップをかけても美味しいかもしれない。
 彼の眉根が寄ったので、名前は慌てて弁解する。

「今ちょうど業者さんからのお返事まってて時間を持てあましていて! あとお腹空いてて! 決してサボっていたわけではなく!」
「分かっている」

 彼がそれを受け取った。名前は今お茶淹れますね、とお茶っ葉を取り出して、ケトルから熱湯を注いだ。

「あ、桜庭さんあんまりお腹空いていないんでしたっけ」
「……渡されたものは食べる」
「あはは、でも桜庭さん、事務所に顔出したらすぐに自主練しようとしていたでしょう? 駄目ですよ、十分に休憩挟まないと」
「……君の言葉に従おう」

 ソファ座っててどうぞ、と言う。はちみつと淹れ立てのお茶を持ってローテーブルに置く。
 名前も反対側に座って、大皿に乗ったそれらのうちの一つを手に取った。びりびりと外側を破くと、彼もまた倣う。いただきます、とぱくりと口に含むと、仄かな甘さとさつまいものほくほくとした食感が口の中に広がっていく。

「──ただいま戻りました、……あ、薫さん何か食べてる」
「珍し、桜庭の頬が緩んでんぞ」

 ドアを開けて帰ってきた二人だ。天道のその言葉にえ、と名前が薫の顔を見ると、確かにいつもより柔和だ。それをじろじろ見るな、と照れ隠しに彼が眼鏡を触れた。

「名前さん、それオレたちの分ありますか……?」
「もちろんです! お茶要ります?」
「頼むぜ! とびきりあちゃい茶、ってな!」
「……よくそう、ぽんぽんとくだらない言葉が出てくるものだな」

 いつもの風景だ。天道と彼ががみがみしているのを柏木がまあまあ、と仲裁している。名前は更に二つ湯飲みを準備した。

「名前! これめちゃくちゃうまい!」
「本当ですか? ありがとうございます」
「でも小さくて一つじゃ足りないです……」
「他のも食べていいですから!」

 給湯室でお茶を淹れる最中、そんな言葉に返答していく。おい翼、お前昼飯も買ったのに、と柏木を制す言葉からどうやら二個目に突入したらしい。別腹です、とふわふわとした声で柏木が言う。










20171112

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