たまごかけごはん/ピエール



 んん、と伸びをして時計を見れば、既に12時半を上回っている。通りでお腹が空くはずだと、ぎゅるぎゅると空腹を主張する腹を見た。今日のご飯はもう既に決めている。たまごかけごはんだ。
 たまに無性に食べたくなるんだよなあ、と準備よく用意してきた、少しお高めの卵を名前は鞄の中から出した。4個入り200円。濃厚で美味しいという謳い文句に惹かれて昨夜買ったのだ。
 ちん、と冷凍していたご飯が温まる。名前はあちっ、とラップに包んだそれをお椀に移して卵を落とした。そこにたらっとめんつゆとごま油、少し醤油を垂らしてちぎった海苔をかければ完成だ。

「──いただきま、」
「おはよう、ございます!」

 ぺちんと手を揃えたところで思わぬ来訪者が来た。事務所のドアを嬉しそうに開けて、そう言うと、プロデューサーである名前に対しても、おはようございます!、と挨拶した。そして紫色の目をぱちぱちとさせながら、いいにおい!、と言った。ピエールだ。

「名前、何食べてる?」
「え、あ、卵がけご飯です……」

 きらきらとした目で見られて名前は思わずびくびくする。じー、と見られるので食べにくくてしょうがない。

「ピエールさん、お昼もしかして食べてません……?」
「うん! みのりと恭二と一緒に食べる、約束したからまだ!」
「そうなんですか……」

 離れたピエールのお腹から、ぐうう、というお腹の虫の音が聞こえた。それが聞こえて黙って食べられるほど名前の精神力は強くない。

「た、食べます?」
「……! いいの?」

 ピエールが目を一層きらきらさせて名前のもとにやってくる。
 名前はまだ手を付けていないそれの黄身をまず潰して全体馴染ませる。スプーンでぐしゃぐしゃとさせながら、ああこんな所をみのりさんにでも見られたら事だぞ、と心の中で思った。なんたって渡辺はピエールのモンペなのである。こんな卵かけご飯なんて食べさせている場面なんて見せたら、うちのピエールに何を食べさせてるの?、という恐ろしい視線が痛いに決まっていた。
 あんまり食べさせても、これからの渡辺と鷹城の食事に差し支えるかと思い、名前はちょっとだけですからね、と言う。スプーンに一口すくって、あーん、と口を開けるピエールの口の中に突っ込んだ。

「おいしい!」
「よかったです」
「もうひとくち! ください!」
「あんまり食べると、次のご飯のときお腹いっぱいになっちゃいますよ……?」

 もぐもぐと咀嚼している彼の顔がぱあっと明るくなった。分かりやすい。
 名前は、ピエールのお昼ご飯の量が減ることによって渡辺に自分の悪事というか、ピエールに卵かけご飯を食べさせたことがバレて、あとでガミガミ言われそうだと怖じ気付いたのだが、ねだるピエールと、コナモノは別腹!、という言葉に負けた。二口目をすくって口の中に入れる。

「このことはみのりさんには秘密にしてくださいね……」
「ひみつ? どうして?」
「え、えっと、何でも!」
「ん、わかった!」

 ピエール?、と階下から渡辺の呼ぶ声が聞こえて、あみのりだ!、とピエールが言う。ごちそうさまでした!行って来ます!、とピエールが慌ただしく下に下りていく。
 このあと鷹城経由で渡辺にばれて、ふうん、という痛い視線に晒され続けることを名前は知らないし、まして美味しかったとピエールに卵かけご飯を再度せがまれることも名前は知らないのだ。






20171214

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