最近の子ってやばい/伊瀬谷四季、桜庭薫
「名前ちゃん面白い話して」
「……二の腕と胸って感触的に同じなんだって」
「ふーん」
「もうちょっと良い反応欲しかったな」
「それもう使い古された話じゃないっすか!」
「最初の頃はちゃんと固まってくれて可愛かったのに……。あ、そうだ揉み比べる? ブラ外そうか?」
えっ、と四季が固まる。可愛い可愛い、男子高生らしい反応だ。それにニヨニヨとしながら、んーどうする?、と思わせぶりに尋ねる。
四季は撮影の合間や事務所で暇をしているとき、こうやってよく無茶ぶりをしてくる。今みたいに面白い話をしてだとか、顔芸一発芸してだとか。なのでだんだん繰り返しそう言うことを言われると、私の話の種も尽きるので、最近はなあなあに流すようになってしまった。二の腕と胸の感触が似ているというのは私の十八番で、十回ぐらい言ったような気がする。最初のうちは四季も固まったり顔を赤くしたり可愛らしい反応を見せていたけれど、三回目あたりになるとまたそれ?、と言った表情になるのだ。無茶ぶりをしてくる彼が悪い。
「……い、良いんっすか?!」
「えっ?」
ごくりと四季が生唾を飲み込む。
彼のことだから恥ずかしながら、しないっすよ!、だなんて声を張り上げて言うかと思いきや、思いもよらぬ答えが返ってきて私の方がきょどってしまう。
「まあ男のロマンっていうか、あるっすよね。自分には無いものっすから」
「ちょ、まっ」
思わず後ろずさった私に四季がにじり寄る。わきわきと手を動かして、真剣な眼差しで私の胸に視線を向けている。それじゃあ遠慮無く、と彼がぽつりと言った。
事務所に猫の威嚇のような私の悲鳴が響き渡る。
・・・
「──ということがあって」
「伊瀬谷!」
めちゃくちゃびっくりしました、と言う前に薫さんが四季を怒鳴るように呼びつける。
最近の子ってたまに分かんなくなるんですよね、という休憩時間のお話だった。お菓子リュックとか、血色メイクとか。咲ちゃんや巻緒くんに言われてもさっぱりで、という話から始まったのだった。そこからつい先日薫さんが居ないときにこんなことがあって、とへらへら笑いながら言うと、薫さんが咽せて今に至るというわけだった。
「どうしたんっすか、薫っち?」
「あー、あれ。胸揉んだやつ」
「あれは不可抗力っすよ! そこに山があったら登るみたいな!」
冷茶を冷蔵庫から取り出していた途中の四季が、彼の怒号に呼び寄せられる。彼の手には、マグカップになみなみの煎茶と残り少なくなったストックが握られている。
「伊瀬谷、いくら名字が煽ったからとは言え、その煽りを素直に受け止めるな。君もいい歳だろう。名字、君は軽々しく冗談を言うな。ここには冗談を真に受ける馬鹿が多いからな」
「いや、でもほら男のロマンっていうか、薫っちにもあ──」
私は何も言っていないのに二人揃って頭のてっぺんを拳骨で叩かれる。四季なんて両手に持っているから守ることが出来なくて、今絶対脳細胞100個くらい死滅したっす!、と喚いた。可哀想にテスト近いのにね。私も間に合わなくてもろに食らったけど。
四季がはっと、何かに気が付いたように口を開ける。
「正直言って、二の腕と胸は同じ柔らかさだったんで、薫っちもし……いッ!」
二度目の拳骨が彼に降り注いだ。
20170810
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