夏休み終了も目前に迫っている。そうなると途端に焦り出すのは学生たちだ。プロダクションには小中高大の学生が揃っていることもあり、特に小中高の学生たちは学校から出されたたっぷりの宿題に難儀しているようだった。まあ既に終わらせている人、計画的に進めていて残り僅かと言う人も何人も居るのだけれど。
「あー! もう無理っす! もうだめ!」
四季が泣きそうな声で仰け反りながら叫んだ。目の前のテーブルには参考書が広げられ、教科書や赤い文字が目立つノート、シャープペンシル、更に積み上げられたテキストが錯乱している。
その向かい側に座る春名も、無理かもしれないなあ、と妙に座った目で明後日の方向を眺めている。
彼らを囲むように座って黙々と宿題をこなしているのが旬くんや隼人くん、夏来くんである。彼らはもう終わらせて自身の勉強をするついでに他二名を監視しているか、もう少しで終わりそうと言った進捗の具合らしいので心配することはない。
「名前ちゃん、もうマジ無理っす! 無理! こんな量終わらないって!」
「四季くん、名前さんを困らせないでください。お仕事しているでしょう」
喋ってないで手を動かしてください、と旬くんがぴしゃりと言い放った。それにしゅんと項垂れて、四季が手を動かす。
うう、と呻きながら宿題を消費する彼らが少し不憫に思えてきた。確かに夏休み中は忙しかったし、それで課題をする時間を十分に取れなかったのかもしれない(きちんとこなしている子の方が多いけれど)。なんだかそう思うと不憫に思えてきて、要らぬ老婆心と申し訳なさと、頑張って欲しい、という思いから、お茶とお菓子を差し入れることにした。お茶は冷蔵庫にある麦茶だし、あとお菓子も暑中見舞いで事務所に届いたものだけれど。
「好きにつまんでいいからね」
籠を机の真ん中にとん、と置いて、コースターと共に麦茶の入った冷えきったグラスを乗せれば、男子高生らしい元気なありがとう!、が集中砲火される。
「旬くん、本当にごめんね。忙しいのに四季と春名の宿題見て貰って……」
「課題が終わらないと部活に参加出来ないので、こちらこそ場所を取ってしまってごめんなさい。名前さんうるさいですよね……」
「名前ちゃんってジュンっちたちのことはくんで呼ぶのに、オレとハルナっちのことは呼び捨てっすよね!」
「四季と春名については前科がありすぎるからね」
基本的に315プロ所属のアイドルたちについては箱推しなので、ファン時や仕事が関係していない時は“くん”、もしくは“さん”で呼ぶことが多いのだけど。四季と春名に限っては、いたずらをしたり、故意ではないにせよ色々とやらかしたりなど前科があり、その際に怒るときにフルネームで名前を呼ぶことが多く、今更取り繕って“くん”呼びすることが無理という理由で呼び捨てなのだ。個人的に四季と春名については、箱推しするアイドルという感じでは無く、どう考えても近所に居るいたずら好きでよくちょっかいをかけてくる、言葉は悪いけどクソガキとしか思えない。いやでも彼らがステージに立っているときは格好いいすき……、となるし、こう複雑なのである。アイドルとしての面と素の面を知っているからこその苦悩が入り交じっている。
「……でもちゃんとずるしないで宿題しててすごいなあ」
「ずるして宿題なんてあんのか?」
「私の時は、本当に終わんなかったら写真撮ってグループで共有し……」
「それいいっすね!」
春名がそう尋ねてきたのに、答えると、四季がきらきらとした目で私を見た。やりたいっす!、と言う彼が、最低一人は宿題を終わらせた人がいないと無理だということに気が付くのはいつだろうか。それに加えて一年生というのは四季一人しかいないので見せるも何も無理な話である。旬くんはそれにとっくに気付いたようで、諦めてちゃんとやってください四季くん、とため息を吐いた。
20170905