じつのとこギリギリ限界/DRAMATIC STARS
「もうむり。もうむりです。最推し薫さんの白くてほっそい首筋に顔うずめてすーはーすーはー息吸い込んで薫さんを十分に堪能してその間薫さんからぎゅって抱きしめて貰わないと私もうしぬ。もうこの業務に追われて寝る暇もなく馬車馬のように働いたこの地獄のような1週間、残り1日を生きることが出来ない。ほんとむりしんじゃう」
「これは随分と、……ご乱心ですね」
名前さん大丈夫ですか、のっぴきならないその状態に思わず声をかけた柏木に返ってきた言葉がそれだった。
ずうん、と暗い表情をした血色の悪い人間が一人。デスクの上で積み上げられた書類の山を目前に呪詛のような言葉を口走っている。
先ほど撮影を終えて事務所に到着したドラマチックスターズ、そのメンバーである柏木は、名前の疲れ切った姿に哀れみの視線を送った。最近自分たちの活動も波に乗ってきた。そうなることは大変嬉しいのだが、そのしわ寄せはもろとも名前に来るのだ。ここ数日の名前の激務はしっかりと理解している。というのも朝から夜まで、事務所に来ると必ず名前が居て、死んだような目でパソコンの画面と睨めっこをし、泣きそうな表情で書類と企画書を仕立てているのだ。
「なぜ僕を見る」
「名前の最推しだろ」
桜庭がはあ、とため息を吐いた。桜庭もまた名前が粉骨砕身して業務に当たっていることは重々理解している。名前の前に立って手を広げて、ん、と言う。
「……幻覚?」
「するなら早くしろ」
「私情で薫さんに抱きつくなんてしたらファンの人たちに頭上げられないですし、正直このプロデューサーという地位を使ってそのようなことをしたら、私がファンでそれを知ったら多分ぶん殴り案件だと思うので遠慮しておきます、はい。さっきのは欲にまみれた戯言なのでぜんぜん気にしないでください」
コーヒー飲んで頑張ります、と蚊の鳴くような細い声で言った名前は、ふらふらと給湯室に赴く。大丈夫でしょうか名前さん、と柏木が言ったその手前、試作段階の衣装が入った段ボールにつまづいて転んだ。ドラスタの面々が転んだ派手な音にびくりと驚いた。
おい大丈夫か、天道が駆け寄って名前の肩を揺すった。もう無理です、へにゃへにゃの声で床に顔面をキスさせながら言った名前の腹周りを引っつかんで、天道がソファに転がす。全くもって首が据わっていないし、手足もでろでろなので、随分と憔悴しきっていることが分かった。このプロデューサーに必要なのは休息の時間だ。柏木が給湯室でお湯を沸かし始め、冷蔵庫から保冷剤を取り出した桜庭が、ぐるんぐるん目を回している名前の鼻に保冷剤を当てた。
20171009
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