ドルヲタ二名/渡辺みのり


「つらい……ドラスタつらい……」
「俺もつらい……」

 はあ、と双方マリアナ海溝にも劣らぬ嘆息をした。所属アイドルとそのプロデューサー。二人で画面を手に汗握りながら食い入るように見つめて、そして逐一画面を止めたり前に戻したりなんだりするので先ほどから画的に全く進んでいない。
 名字は再来月発売されるライブDVDの最終確認を行っていた。この確認は名字が最終的に了承するとそのまま製作に繋がる重要なものだ。もちろん名字も裏方として参加していたこのライブ、どのカットを、シーンを入れるべきかと製作会社側と打ち合わせを重ねてきたので、こうして完成に至ったことは喜びもひとしおだった。

「は〜、輝さん〜、はあーむりすぎる」
「顔面エグいよね」
「分かりますそれ」

 その作業の中で、現れたのは所属アイドルの渡辺みのりだ。彼はBeitというユニットのメンバーで、趣味と言うべきか最早人生と言うべきなのか、名字には判断しがたいが、アイドルのライブDVDの鑑賞がある。
 渡辺は名字にあいさつをしたところで、彼女が何を見ているかに気が付いたようだった。そして打ち合わせまでにもう時間があるので一緒に見てもいいか、ということを尋ね、今に至る。

「翼くんもさあ、えっぐい振りしてるよね。腰回りえろ」
「分かりすぎます」
「輝もすごいよね。二人とももう分かってるよね。何をすれば黄色い声上がるのかって」
「私当日、現場に居ましたけど歓声というか叫び声やばかったですもん。裏まで聞こえて来ました。後にSNSで何がやばいって呟き見たときどうして観客席に居なかったんだろうってへこみました」
「俺もどうしてこの日仕事入ってるんだろうって思った」

 仲間ー、とぺちんと手をハイタッチした。

「確かにここは煽情的にお願いしますって言いましたけど、いやこれほんと駄目ですよね。死人が出てしまう」
「モザイクかけたい」
「分かりすぎます」

 はあ、とため息を吐いた。その後一息置いてから、再び再生ボタンを押す。その後に映し出されたのは桜庭薫の姿で、名字は思わず嘔吐きそうになった。慌てて渡辺が一時停止ボタンを押す。

「桜庭薫……」
「しんどすぎるとフルネームで名前呼んでしまうの分かるよ。これはフルネームで名前を呼んでしまうレベルのしんどさだよね」

 大丈夫、ゆっくりでいいからね、と渡辺が名字の背中をさすった。

「カメラさんの圧倒的カメラワークの良さ……今この瞬間を抜いてくれた、その腕の良さに貢ぎたい気持ちが募ります」
「分かる」
「すごい苦しそうな表情してるのが、もう、つらい……、ここ感情が昂ぶって声音がぶわって広がってるんですよね……あと指が綺麗……汗がやばい……この画面の中の情報量が過多すぎて頭の処理が追いつきません……」
「分かる」

 えぐえぐと胃の腑から何かが飛び出しそうな状態で言う名前の背中を撫でながら、よく頑張ったね、と渡辺が言った。
 がちゃん、事務所の扉が開いた。

「──おはよ、……う」

 いつもの通りの挨拶、のはずだったが、途中で渡辺と名字が仲むつまじそうに肩を並べて座っていること、そして二人が何を見ていたのかに気が付いて声が一瞬止まる。まさか先日行われたライブを映していて、しかも自分自身の画面で止められていたとなれば本人もどう反応すればいいか分からないらしかった。バツの悪そうな表情をしている。
 名字は肘をつけて顔を下に向けはあ、と一息吐く。そして桜庭さんが生まれてきたことに感謝、と一人で呟いた。渡辺がそれに分かる、と返答した。





お題箱より。トゥインクル!のみのりさんのお話
20171103

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