もちつもたれず/Jupiter



「名前さんっ!」

 ドタドタと駆ける足音と御手洗さんの声に思わず身構える。その後瞬時にドン、という衝撃が背中に襲ってきて、前につんのめりそうになったけれどなんとか踏ん張る。

「どうだった?」
「今日も最高でした!」

 音楽番組の収録を終えて、挨拶回りの最中。番組のディレクターにも褒められて、内心気持ちが浮ついていた。自分の事務所のアイドルを褒められて嫌な顔をする人も居ないと思う。ジュピターとしては番組への出演は二度目で、一度目同様本当に素晴らしかったとのことだった。そのままディレクターと世間話をしていたところで、いきなり御手洗さんがのし掛かってきたものだから会話が途切れる。

「お話の途中に本当にすみません。御手洗さん、伊集院さんと天ヶ瀬さんも着替え終わりそうですか?」
「うん。もうちょっとで来ると思うよ」
「本当に申し訳ないのですが、これからすぐに取材が入っているので……」

 失礼します、と頭を下げる。
 他の二人も着替え終えたようで、入り口のドアの近くでお先に失礼します、と頭を下げていた。
 横でぴょこぴょこと歩く御手洗さんと一緒に、番組のスタッフの方々に会釈をしながら二人に合流する。
 スタジオを出て、番組のスタッフが居ないと確認するために御手洗さんは辺りを少し見回して、ふう、と息を吐いた。

「名前さんってほんと隙だらけだよね」
「本当に助かりました……」

 天ヶ瀬さんがなんだなんだ?、とぱちくりしている。逆に伊集院さんはああ、と納得した顔だ。

「御手洗さんのおかげで長話せずに済みました……」
「名前さんも気を付けた方がいいですよ。あのディレクター、立場を利用して食い物にするって有名ですから」
「まさか私まで守備範囲になるとは思わなかったので……ホテルのビュッフェの話振られて、あ〜これかなってなりましたよね」
「アイツ……!」

 いやー参りました、と苦笑いしていると、天ヶ瀬さんも気が付いたのだろう。怒気を含んだ声音だ。

「ほんと名前さんって僕がいないと駄目なんだから!」
「いつもお世話になってます」

 いつもの彼の台詞に、私も笑いながら返答する。
  
「──あ、そういえば、トーク中のピンマイク、なんだか塩梅悪そうでしたが、あれはクリップのせいですか? それとも衣装のせいですか?」

 隣の御手洗さんが目をぱちくりとさせる。

「マイク、気にされていたみたいなので。もし衣装だったら、衣装さんに連絡しないと、とは思っていたのですが」
「音がぶつぶつ切れるような気がしていただけなので。機材の調子が少し悪かったのかもしれません」
「分かりました。それでは局の方にも一応言っておきますね。音、ちゃんと拾っていればいいのですが」
「にしても、よく分かるな。他のスタッフ全然気が付いて無かったのに」
「いつもより御手洗さんのマイクを直す回数が多い気がして」

 いつも見てますからね、と言うと隣の御手洗さんが口角を上げたように見えた。

「名前さん! 僕、お腹空いた!」
「翔太お前、差し入れ食ってただろ」
「僕成長期だもん!」
「次の現場までちょっと空きますもんね。どうしよう、……そうだ、クレープ屋さんどうです? ここらへんで最近出来たところの」
「持ち帰りも出来ますしいいですよね、そこ」

 じゃあ決まりですね、と場所をスマートフォンで確認した。
 やっぱり定番はチョコバナナだけどいちごのやつも食べたいなー、という御手洗さんの言葉にほどほどにしろよ、と天ヶ瀬さんがツッコミを入れる。三人を引き連れて行ったら、きっとバレてしまうだろうから分散させるか私一人で行くかしないとなあ、なんて考えた。
 プロダクションの中で一番先輩といえども、可愛らしい部分もあるんだなあ、と気持ちが浮ついている三人が微笑ましい。




20171111

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