キメるしかない/high×joker、W


 名前ちゃんもう無理っす!、名前さんもう諦めて寝て良い?、名前さん仮眠したい仮眠!、この量一日でするのは無理だから計画的にって言ったでしょう春名さん四季くん、俺も限界かも、悠介瞼半分落ちてるけど、うーん。
 机を囲んでテキストを広げる彼らの悲痛な叫びが聞こえてくる。時刻は夜十一時。ライブ終了から三時間経った。普通ならライブが終わり次第スタッフさんたちを含めて打ち上げに行くのだけれど、今日は随分と勝手が違う。そちらの方は大人組に任せて、私たちは重い腰をどうにか持ち上げて事務所に向かっていた。その理由は明日提出の宿題があるから、これに限る。

「仮眠する際は段ボール引いて寝ると良いですよ」
「え、もしかして名前ちゃん、泊まるときいつもそうやって寝てるんすか?」
「適度に寝にくいと眠りが浅くて済むので」

 うえ、と四季が顔を顰めた。
 未だ返信していないメールと企画書と発注書の作成をしながら答える。この二日間におよぶライブで体力を消耗して、色々と溜め込んでいるのは学生の彼らに限ったことでは無く私もそうだ。この二日間、リハと機材搬入のために一日使ったから実質四日間の間に溜め込んだ仕事の数が過去最大だ。
 本当は私だって飲み会に参加したかったし、美味しい料理を食べたかった。しかし状況がそれを許してくれない。ぎゅるると空腹を主張するお腹にゼリーとバーを詰めこんで紛らわす。というのもお腹いっぱいに何かを食べると眠くなるからである。始業時間まであと9時間、彼らの一時間目が始まるまであと8時間、デスレースが始まったと言っても過言では無い。

「私リポキメますけど、他に飲みたい人は、」

 全員ライブ後で疲れ切っているのはもう分かっている。歌うことも踊ることも体力の消耗が激しいのだ。本当ならばすぐに家に帰して休ませてあげたいけれど、彼らも学生。こうやってアイドル活動をするにあたって学校側にたくさんのことを融通して貰っている。出席のことだとかテストのことだとか。その代わりに出される課題はきちんとこなすようにという約束になっているのだ。それを反故にするわけにはいかない。
 私がそうやって尋ねると、すっと手を上げた、七人。全員が戦地に赴く戦士のような表情をしている。私ははーい、と気の抜けた返事をして、ロッカーに常備している栄養ドリンクを箱ごと机の上に乗せた。ぞろぞろと手が伸びる。

「飲むの久しぶりだな」
「うえ、まっず」
「確かにもうちょっと美味しければなあ」

 口々にそんな論評をしていく。
 私も渋い顔をしながらそれに口を付ける。何度も飲んでいるけれど、正直言ってこの味には慣れない。舌で味わってはいけない。喉に直接流し込むのが正しい飲み方だと私は思っている。

「それでは残り頑張りましょう……、終わった人からソファで寝て良いので。物置に毛布と、簡易的に作ったベッドがあるので、一人そこで寝れます。あとは机か床で雑魚寝でよろしくお願いします……。持ってきた制服はちゃんと掛けました? あと学校に行くときに不要な荷物は事務所に置いていっていいので」

 健闘を祈ります、そう言うと、各々の覇気の無い返事が聞こえた。
 今頃、大人組は打ち上げで楽しんでいるのかなあ、そう思うと涙が出てきそうだ。毎日コツコツやっていればいいものを、という話ではあるが、それを出来るのも僅かな人だけである。旬くんや夏来くん、享介くんを本当に尊敬する。
 ガリガリとシャープペンシルが走る音と、しゃっしゃっと丸付けがされる音が続く。十二時を上回った頃、それに加わってとんとん、と階段を登る音と話し声。がちゃん、事務所のドアが開いて、差し入れ持ってきたぞ、との天道さんの声に学生組がわっと声を上げる。

「え、お酒飲んでこなかったんですか?」
「皆頑張ってるのに俺たちだけ飲むのも悪いかと思ってさ。今度都合が合うときに全員で飯でも行こうぜ」
「天道さん男前……」

 みんな大変だねえおじさんからはお菓子、オレからは野菜ジュース差し入れだよ!、おにぎりたくさん買ってきたんで朝食にでも食べてください、飲み物も必要かなと思って買ってきたんです、疲れたときは糖分を摂取するといい。どちゃどちゃとテーブルの上に袋が置かれていく。話をしていたのも束の間、頑張れよ、と早々に退出していく。セムのお三方あたりは春名や四季に引き留められながら出て行った。
 残りも頑張りましょう、そう言うと先ほどよりは覇気のある返答が返ってきた。
 宿題を何とか終えたのは、朝の四時を上回った頃。白んできた空を眺めながら雑魚寝をして、アラームをかけたのに全員で遅刻をしそうになった話はまた今度にしておこう。








20171115

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