錯覚/渡辺みのり
※ほぼ会話
「ほんとハイジョってグループは……、めっちゃくちゃ可愛いんですよね……」
「分かる」
ふう、と名字が一つ息を吐いた。昼休み。昨日オンエアされたハイジョーカーがゲストとして登場したバラエティ番組を凝視する。隣には当たり前のように渡辺が座っている。双方パソコンの画面を目の前に、両腕の肘をテーブルに着け、手の甲に顎を乗せている。俗に言うゲンドウポーズである。
「まずなんと言ってもグループの中でメンバー均整が取れてるよね。クール属性の子とはしゃぐ子が半々くらいなのが」
「分かります。ちょっと愛おしすぎて胸の中もやもやするので自分言語化していいですか?」
「どうぞぜひ」
自事務所のドルヲタが二名。時間さえ合えばこのように会話に花を咲かせることが多い二人のことには既に同じ事務所の面々も慣れっこである。打ち合わせとして、ドラマチックスターズと渡辺がメンバーの一人であるバイトが、今は事務所の一角を借りていた。現在は昼休憩と言うことで、ユニットの面々はおのおのお昼ご飯を食べている。渡辺の目の前にも一口食べたおにぎりと紙パックの野菜ジュースが置かれている。
「まず四季。かわいい。可愛すぎる。全てが可愛すぎて変な声出そうになるんですけど。たまに調子に乗ってやらかしてしまうときがあるんですけど、根は本当に良い子なんです。一生懸命で誰よりもハイジョが大好きで、ああもうだめ。愛おしさの爆発」
「今回のバラエティでも罰ゲームで、メンバーに秘密を暴露っていうコーナーあったけど、それで、今まで恥ずかしくて言ってこなかったっすけどハイジョメガメガハイパー大好きっす!、で全ての心を抉られた感あるよね」
「もうそこですよそこ。完全に私そこで生まれてきてくれてありがとうって天を仰ぎましたもん」
「次行こう」
「はい。次旬くん行きます。もう旬くんは、もう芯がしっかり通ってるんです。もうそこ、そこたまらん。クール属性、でも猫大好き。事務所の裏口で猫と戯れる場面なんて見たらもう無理この前耐えきれなくて一言入れてから写真撮らせて貰いました」
「何それ初耳。俺にもください」
「おーけーです。あとでデータ送りますね。もうね、ギャップがすごいんですよ旬くんは」
「今回のオンエアで、リーダー隼人くんを信頼してるというか絆が相互にあるのもほんと好感爆上がりだし、なんだかんだ四季くん認めてるのが、ほんと……」
「むり……。次夏来くん行きましょう。普段無口でミステリアス感あるのに、ライブになるともう一気にきらきらするんですよね。あと旬くんのこと言うときの笑顔! あれは死です」
「今回の、ジュンがんばって、で抜いてくれたカメラさん……」
「お布施したい。束で札を渡したいです。むしろこうジャケットの中にねじ込みたい勢いですよあれは」
「俺が石油王なら油田プレゼントしてたカメラワークの素晴らしさだった、あれは」
「激しく同意です。次春名……。ビジュアルお化け……あんな顔面正面から見たらぶっ倒れてしまう……」
「分かる……」
「え〜、もう! この前のライブ見ましたみのりさん?! ドラム! めちゃくちゃ格好良かったんですけど?!」
「腕の筋とか手の骨張りとか、そこだよね。高校生バンドであり、成人と学生という不安定な多感な時期を過ごしている彼らがただの子供ではなく一人の男であることを見せてくれたよね、そこの部分は」
「みのりさん語彙力ありすぎじゃ無いですか?! 私映像を前に喃語すら言えませんでしたよ」
「俺も見てるときは感極まりすぎて何一つ言葉を発せてないよ」
「仲間……。次隼人くん……。もうね、頼れるリーダーなんですよ彼は。小柄な方ですし、ちょっと涙もろい部分もありますけど、だけど絶対的なリーダーなんです。ハイジョは彼ありきなんですよね……」
「普段からそうだけど、特典映像でもさ、ハイジョで円陣組む時の隼人くんの格好良さと言ったら……」
「あれほんとやばいですよね?!」
「あの円陣の映像、若干手元ぶれてたから録った人感動して泣いたのかな、って思ってたんだけど、いやもうあの場面を録ってくれるのはほんと、もう最高だよね」
「あれ録ったの私です」
「名前……ありがとう……最高のプロデューサーだよ……」
はあ、と一通り思いをぶちまけて双方息を吐いた。
「私やばいかな、って思うんですけど」
「うん、言ってみて」
「ほんとハイジョが可愛すぎて辛いんです。もう愛おしさの爆発ですよ。彼ら五人が集まってるのを見た日にはその日一日中にやけが止まらない。もう幸せすぎて脳内から幸せな気持ちにしてくれるホルモンどばどば出てるな、とは常日頃から思うんですけど。こういう感情を何て言うのか最近分かりました。母性です」
「ねえすっごいわかる」
「あ、ほんとですか? じゃあこれから私が言おうとしてること何だか大体予想着きます?」
「わかる。俺もそれ言おうとしてた」
「せーのでいいます? せーの、」
「産んでる」「一人ぐらい産んでますよね」
ごほ、と奥のテーブルにいる何人かが咽せた音がする。あらぬ所に被弾していた。当の本人たちは仲間ー、とにこやかである。
「みのりさん、あんた男じゃないっすか」
「名前、お前何歳の時の子供だよ」
各方面からツッコミが入る。それぐらい愛おしさが爆発してるってことです、と名前が続けるものの各々引き気味である。周りから理解して貰えないときもあるけど、俺は誰よりも理解してるし分かるよ、と渡辺が名字の肩をぽん、と叩く。歴が長いと言葉の重みが違いますね、と名字が言った。
20171217
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