泣き上戸/DRAMATIC STARS
「もうなんかね、むりなんですよ」

 彼女がどん、とサワーの入ったグラスを机に置いた。ほんのりと赤くなった顔。酔った彼女はいつもよりずっと素直で、かつ口が回る。少し早めに仕事を終え、久しぶりに四人で飲まないか、という天道の誘いに彼女が乗り、こうなったわけだった。今までほんのりとしか酔った姿しか見たことがない彼女の変貌ぶりに、僕だけでは無く、天道と柏木もまた驚いている。

「天道さんも桜庭さんも柏木さんも、こんなだめだめな私にすごい優しくしてくれるし、それなのに全然その優しさに応えられなくて自分の実力不足でいつも不安になってしまうし、今日だって桜庭さんのフォロー無かったらドジしてたと思うし」

 裏方で頑張っている彼女をねぎらうため、という意味も込めての飲み会で、いつもメンバーを気にして飲まない彼女に酒を次々と勧めたことが悪かったのかもしれない、と反省している。そもそも彼女は、そんなにアルコールに強くないので飲めないんですよね、と常々口にしているし、天道より少し上ほどと見積もるべきだったのだ。僕と柏木と同じペースで飲んで居たので、少し不安だったがアルコールに強いと思ってしまったのだった。
 もう私なんて全然プロデューサーに向いてないんです、と涙声で言い始めた彼女に、面々どう声を掛ければいいか分からない。なにせいつも前向きでメンバーを元気づけているような彼女なのだ。このように弱気になっている姿を見るのは初めてだった。えぐえぐと本格的に泣く彼女の肩を撫でれば、彼女が「もうやだ桜庭さんが優しいむり」と言う。優しくしても泣かれるのならいったい僕はどうすればいいんだ。大の男三人が女性一人を泣かしているような絵面である。向かいに座る彼らに視線を投げた。

「名前さん! お水、お水飲みましょう」
「うえええ、柏木さんも優しい……むり……」

 柏木が彼女に水を渡した。名字がそれを呷る。ごくごくと喉を鳴らして飲む名字を見、そして自身側のテーブルを見た天道の顔がさっと青ざめた。

「翼、これ日本酒じゃないか?」
「あっ! えっ?! 名前さ、薫さんコップ! コップを名前さんから引き剥がしてください!」
「名字、グラスを離せ」

 先ほどまでほんのりと赤かっただけの顔や首筋が急激に赤く染まる。天道に水を追加で注文するように指示し、彼女の肩をとんとんと叩くと、ぽわんとした表情で彼女が笑った。いつもの口の端までぎゅっと結んだような引き締まった表情でも、僕らを語る時のだらしのない表情でもなく、毒気が抜かれたあどけない表情だ。その彼女はにこにことした表情をしたかと思えば、途端にさっきの比ではない大粒の涙をぼたぼたと零し始めた。

「もうやだあ。ドラスタの皆さんって私にはとてもとてもじゃないけど勿体なすぎなんですよお。輝さんはすごくしっかりしていて優しいし、私がファンとしてうざ絡みしても神対応だったし、ほんとに大人の男性って感じで素敵だし、翼さんはよく周りを見ていて気遣いがすごく出来て、近くで見るともう身長高くて映えるし、普段尻尾を振る大型犬みたいな感じなのにふっと見せる肉食獣みたいな顔にきゅんとするし、薫さんなんて本当にいくら感謝してもしきれないぐらいで、この前営業でズタボロに言われて裏口で泣いてたら慰めてくれたし、しかもその時尋常じゃ無く優しくて、もうほんとむりって感じで、そもそも薫さんいつも私の茶番に付き合ってくれるし、一見冷厳そうに見えるのにすごく優しいところとかギャップで胸抉られるって感じでしんどすぎで、薫さんはもう全てが好きなんですけど、特にそれが最推したる所以で、」

 べらべらと語り始めた彼女に目が三人とも点になる。その語り口に圧倒されて声が出ない。あれお酒ない、と呟いた彼女にこれ以上酔わせたらとんでもないことになると三人の意見が目線で合致し、先ほどテーブルに運ばれた水を目の前に置く。それを名字はごくごくと飲んでいる。
 その後もべらべらと僕たちのことを話し、その度に褒めちぎるので聞いているこちらが恥ずかしくなってきた。おい名前、と天道が彼女の言葉を照れくさそうに遮ると彼女が笑みを浮かべてなんですかあ?、とふわふわとした口調で返事をしたあと、その後いきなりどんっ、とテーブルに頭を打ち付けて寝落ちした。

「名前潰れたぞ、……どうすんだ」
「意識が戻ったらタクシーに突っ込むか、このままなら事務所に送るか、誰かの家に置いていくしかないだろう」
「戻らなそうですね……。名前さん、明日お休みですよね? 事務所に送ったら休まないで一仕事してしまうような気が……」
「じゃあ誰かの家だな」
「なぜ僕を見る」
「名前の最推しだろ?」
「無いとは思うが、名字を連れているところを誰かに見られて、週刊誌にでも載ったら事だろう」
「それじゃあ、四人で一緒に行けば良いんじゃ無いですか? 明日はオレたちもオフですし」

 天道が酔いつぶれた彼女の頭を撫でながら、お前は十分良いプロデューサーだし、熱意も伝わってくるよ、と囁く。彼女は寝息を立てるばかりで反応しない。まさかあんなに愛をぶつけられると思いませんでした、と柏木が屈託無く笑った。明日彼女が一連のことを覚えているかは分からないが、朝起きたらびっくりして腰を抜かすに違いないということだけは確かだ。








20170517

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