思い出すだけで悶え死
飲み会もだんだんと盛り上がってきた。前の方では秋山さんと伊瀬谷さんが即席漫才をして場を賑わせている。なんでやねん、のツッコミを先ほど東雲さんがレクチャーしたおかげでメリハリがついてきた。ばしんとお腹を叩かれる秋山さんが痛そうではあるけれど。
今日は、約二ヶ月間走ったライブツアーの千秋楽だった。色々な場所を回ってライブを行ったのは本当に久しぶりだ。特に今回は、前回とは一風変わった演出をたくさんしたおかげで、どの公演もまたとない仕上がりになった。観客席から聞こえる割れんばかりの歓声も、アイドルたちのパフォーマンスも最高で、今日は最後ということもあって盛りに盛り上がっていた。
ひとまず区切りがついたと言うことで、夜、なんとか全ユニットの都合を合わせてお疲れ様会を実施することになった。アイドルだけでも46人という大所帯かつ目立つこともあり、都内の居酒屋を貸し切っての会である。太っ腹な社長から軍資金も貰った。乾杯の音頭を取ってからは、ツアーが始まってからは一段とぴんと張り詰めていた雰囲気とは打って変わって、いつものプロダクションの雰囲気になった気がする。ここまで大きい規模のライブも初めてだったから、私でさえそうだったのだから、皆気が気ではなかったのだろう。
「──名前ちゃん、前行かなくていいのかい?」
「え、行っていいんですか?」
「翔真さん、名前にそれは禁句ですよ」
「渡辺さん何言ってるんですか? 酷くないです?」
「まあこの前は桜庭先生の細かすぎて分からないモノマネだったし、その前は一人でブルゾンしてたもんねえ」
「結構盛り上がったじゃないですか!」
山下さんが、苦い顔をしてビールを口に含んだ。
珍しいことに席もバラバラなのである。普段あまり絡まないような人たちで集まっているものだから、少し新鮮だ。長かったライブツアーを通して各々今まで絡んでこなかった人とも話すきっかけが作られたり、仲良くなったりしたんだろうなあ、と思うと感慨深い気持ちになる。
真横では兜さんが、ワシは結構面白かったと思うけどのう、とからあげを食べながらぼそりと言った。
「ふふふ、今までの私をあなどらんでください」
「なんで大阪弁やねーん」
「良いツッコミです、山下さん。私、先日新しい宴会芸を習得いたしまして」
ありがとうございましたー、と秋山さんと伊瀬谷さんがお辞儀をすると盛大な拍手が送られる。私もそれにぱちぱちと手が腫れるぐらいの拍手を送って、スッと手を挙げた。
「サマホリ踊ります!」
ぶは、と真ん前の山下さんが噴いた。名前−!、といつもの渡辺さんの歓声が聞こえる。
「俺ライブの音源持ってるよ!」
「渡辺さん俺小さいけどスピーカーあるから繋ぎます?」
「最高すぎです、ありがとうございます」
準備と手際がよろしすぎる。私は若干もみくちゃになった座布団を踏みしめながら前に行く。
「ミスター硲! オレたち前に行こうよ! ミスター山下も!」
「ふむ、確かに名字くんのダンスはとても興味がある」
「えー、」
「うわあ、本人たち居る前で踊るってめちゃくちゃ緊張するじゃないですか」
先生たちが座布団を持って前に来る。ソロかよ、と鷹城さんがツッコミを入れた。渡辺さんが準備いい?、と尋ねたので、腕を丸の形にする。ジャケットのボタンをぷちんと外して羽織り直す。
イントロが流れる。やばい確認と趣味と練習含めて1000回ぐらい見たし聴いた。これは謙遜でもなんでもなく、確実に今年に入ってからのカウントだと親の顔より見てるし声より聴いてる。身体が自然に動く。
「ここ! ここの腰やばくないですか?! 硲さんが固くて、山下さん柔らかくて舞田さんその中間くらいでどえろ!、って毎回のように思うんですけど!」
「Wow……」
私がただ踊るだけで終わるはずがない。映像でも現物も何回も何回も見ているのだ。指の先から表情まで瞼の裏に焼き付いている。渡辺さんのもっとやれー!、という雄叫びのような声が聞こえた。
「ねえ、ここやばくないですか! ここの! まいたる! やばい! 顔! 苦しそうな表情超やばいんですよ! ねえほんと舞田さんちょっとやばいんで今日もやばかったんで!」
「名前ちゃん怖いんだけど」
「いつでも全力で生きてるんで!」
あの瞬間、の舞田さんの表情がやばいことはご周知の通りだと思う。表情を歪めて苦しそうに歌う表情に、胸が本当に息苦しくなるのだ。
そもそもサマホリ自体、ひと夏の恋という今までのセムらしからぬコンセプトの曲で、そこから私たちファンの心臓を抉りに抉っているわけだが、その曲中での彼らの表情ももう堪らない。演技のお仕事も大変素敵にこなしてみせる彼らではあるが、こんな数分の曲でここまでの表情を見せられるともう無理という感想しか出ない。
「Cメロの山下さんの、この手すりのところに腕かけたときの表情ほんとうにやばいんですよ! 未練がましい男の顔してるんですよ! もう見る度変な声出るんですけど! あー、ここの硲さんの表情、この曲でも最初からそこまで感情的になっていないな、ってなるんですけど、ここで身体の使い方も表情も堰を切ったかのように溢れ出てきてうわあ!、って毎回目が離せなくなって、」
お三方でも歌いながら踊るのが辛そうな曲なのに、まして口を常に開いて喋っている私だ。息切れして大変しんどい。だけれど喋る口を止めることが出来ない。
「きゃー! ここの硲さんソロ! 叶ったことがのところ! もういっつもきゃー!ってなります! えいやめちゃくちゃ好きです! 硲さんありがとうございます!」
「こちらこそ……」
硲さんがぺこりと頭を下げる。うわあ、すみませんそういうつもりじゃないです、と言いながら踊る。
会場は湧いているが、いつもムンナイで同じようなことをしているドラスタの皆さんの視線は結構痛いし、あと山下さんの視線は地味に刺さってくるし、舞田さんと硲さんのきらきらとした視線は痛い。
曲が終わってはあはあ、と息を切らせながら以上です、と言うと、指笛や歓声が私めがけて来る。こんなん毎回してたら確実に痩せるな、いやもう覚えようとして見ていた段階で1か月1キロくらい痩せたから、もう毎日しようかなとすら思う。
「名前−! 次スマエン踊ってー!」
「ええー、もうめちゃくちゃ疲れたんですけど……」
「名前、踊る? 僕もいっしょ、踊る!」
「やっば、本人とですか? 踊ります!」
すっとピエールさんが立つ。私みのりさんするので、山下さん鷹城さん役どうですか?、とそそくさと座布団を持って後ろに引こうとする彼に尋ねると、びくっとして、ええおじさんが?、と引き気味に言った。皆ですれば怖くないんですよ、と山下さんの裾を引っ張ると舞田さんも面白そうだと言うし、硲さんも他のユニットの曲を踊ることで何か発見することもあるかもしれないな、と山下さんの腕を引っ張る。まじですかあ、と辟易した彼の声とは正反対に、渡辺さんが曲を流す準備をしながら、鷹城さんのスマートフォンを奪い取ってカメラをこちらに向けている。さすがすぎる。
お題箱より。ライブ後の打ち上げなどで余興としてトゥインクル!の主人公がS.E.Mのサマホリを踊るお話
20180430
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