奇行/東雲荘一郎
「こう、生クリームとかカスタードクリームを単体で死ぬほど食べたくなる欲が月1回くらい来るんですけど」
「太りますよ」
「でも食べたくなるんですよね」
「卵と糖分の摂り過ぎはいけません」
「コレステロール値を恐れるな。私たちはまだ若い」
10個入りの卵パック、1リットルの牛乳、薄力粉、無塩バター。役者は既に揃っている。お昼ご飯の時間帯、給湯室のコンロの前に立つ私の隣にはがしりと私の腕を掴んだ東雲さんが厳しい眼光でそれを睨み付けている。
「お願いです東雲さん見逃してください」
「私かて薫さんから厳しく言われてるんで。名字が奇行に走ったら止めろ、って」
「一体なんなんですか?! なんで事務所内で私のことについて共有されてるんですか! そもそもそんな奇行に走ってないんですけど?!」
「忘れたとは言わせませんよ。先々月の流しそうめん、先月の1週間お昼ご飯がコンビニの巨大プリンだった件」
「もう桜庭さんがロケで終日いらっしゃらない今日しかないんですよ! ここ意味分からないぐらい調理器具あるじゃないですか! 泡立て器もあるしケーキくるくる回してクリーム均一に塗る台もあるし、あとバニラエッセンスもアーモンドプードルも、もういいから作らせてください!」
「だめです」
「じゃあスーパーに行ってスプレー缶の生クリーム直で口に注ぐ暴挙をします」
「学生組が真似したらどうするんですか。もっとだめです」
「私の身体ですよ! 勝手にさせてください!」
そもそも流しそうめんは、もふもふえんのお三方が面白そうとテレビを見ながら言っていたから企画したのであり、最終的に途中参戦の方々もめちゃくちゃ楽しんでいた。
ギリギリと掴まれていた腕を振り払って、卵をひとつ割る。東雲さんが、あー、という声を上げた。卵の殻を使って卵白と卵黄とに分ける。作り始めたら私の勝ちである。
東雲さんがため息を吐いた。そしてそろりと卵に手を伸ばすと、卵白と卵黄とに分けるのを手伝ってくださっている。さすがはパティシエ、手際が良い。
「ところで名前さん、あなたどれくらい作るつもりですか?」
「牛乳1本使いますよ」
「は?」
正気ですか、と彼が尋ねる。私はそれにもちろん正気です、と返答した。
「牛乳200mlに卵黄2つ使って、余った卵白でシフォンケーキかラングドシャ作ろうかなって思ってるんですけど」
「それ一人で食べるおつもりで?」
「まあ途中で胸焼けしなければ」
「カロリー」
「うわー全然聞こえないです」
20180501
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