本業/Jupiter
「──やっぱり冬馬くんって、女の人に翻弄されるのが似合うなあ」
「え、は? あ、アンタ何言って……!」
「って一ファンの私が言ってます」

 ジュピターの三人でソファに座っている天ヶ瀬さんがびっくりしたようで、目を見開いて私の方をくるりと向く。顔が少し赤くなっている。そういう所も似合うと思えるんだよなあ。私はデスクで頬杖をつきながら、彼を見る。

「どうしたんです、名前さん? 藪から棒に」
「あっすみません。お邪魔でしたよね」
「夕飯の話してたから全然−。それよりその続き聞かせてほしいなあ」
「以前にも、学園ドラマで硬派な天ヶ瀬さん、男子高校生を演じていらっしゃったじゃないですか。その際の、同級生の女の子とのキスシーンというか、顔を赤らめながらキスをする間際で止めてしまって、やっぱ出来ねえ、ってふいっと立ち去ってしまうあの初心さが垣間見えるシーン、迫真の演技すぎて天ヶ瀬さん一時期すごく話題になったと思うんですけど、そういうのが似合うなって」
「結構前のですね。移籍以前の」
「この前渡辺さんから借りて見たんですよ」
「まああれ、実際の冬馬くんだよね」
「んんん、最高の裏話」

 正直言ってそのドラマも最高だった。なんならパソコンで再生してそのシーンのスクリーンショットを撮ったぐらいには。制服姿も大変似合っていたし、なにより等身大の男子高校生の彼を見ているようで胸がきゅんきゅんした。話題になった当時は、放送直後にも関わらず続編が望まれるぐらい。結局色々とあってまだ続編は製作されていないものの、315プロに移籍して落ち着いてきた頃合いだし、そろそろ声がかかっても良いんじゃないかな、と思う。というかむしろ局の方に出向いて続編作って下さいと直談判したい。私が続編を見たい。

「じゃあ名前さん、僕は? どんなドラマのお仕事似合う?」
「翔太くんは、失恋した主人公に、僕だって男だよ、って言って主人公の恋人ポジションを虎視眈々と狙う年の離れた幼馴染み役があるドラマがいい、って一ファンの私が」
「あははっ、それ名前さんの願望じゃん!」
「じゃあ俺はどうですか?」
「北斗さんは、非の打ち所がないイケメンだけど、その実猫を溺愛しすぎて飼っている猫の前だとほっぺゆるゆるしっぱなしの凄腕バーテンダー役のドラマがいいです」

 最早願望でしかない。でもこんな役があったらきっと似合うし、絶対お仕事をもぎ取ってくる。天ヶ瀬さんがバツの悪そうな顔で尋ねてくる。

「それじゃあ桜庭さんはどうなんだよ?」
「桜庭さんというかドラスタの皆さんなんですけど、ムンナイもありますし、一夜の関係関連のちょっと年齢制限のあるドラマや映画に出演いただいて、全人類の女性ホルモン分泌を促進させていただきたいです」
「出たパワーワード」
「目的語が大きいですね」

 御手洗さんが呆れたように言う。私の口からパワーワードが出るのはいつものことなので、事務所の面々もだんだん慣れてきているような気がする。
 まず前職が医者、弁護士、パイロット、そんな三人がムンナイという曲を歌っていることが、黄色い悲鳴が喉から込み上がってくるぐらいにはやばい。今までの明るくさわやかな曲調からして、このムンナイがリリースされるだなんて思った人が果たして居たのか。いや本当に彼らをプロデュースしている人に札束を握らせたい。私か。お堅い職業に就いていた彼らが歌うことによってエロティシズムが助長されているというか、これを機に情事中の演技をするような仕事が来るようになったら私のみならず全人類の心臓が死ぬから止めて欲しい、いやしてほしい。

「いやだって聞いてくださいよ!」
「聞くっつうの」
「ありがとうございます。27歳外ではバリバリに仕事をする営業職の女性、しかし実は家事が苦手で料理なんてもってのほか、対して両親の海外出張によって彼女の元に預けられる運びとなった男子高校生、炊事洗濯家事はお手の物、得意料理は煮込みハンバーグ、ちぐはぐな二人暮らしが始まった!、って感じでその男子高校生役、天ヶ瀬さんにぴったりじゃないですか?」
「随分と詳しいな……」
「キッチン立っているところでじっと見られて手元狂うから見るの禁止、って言う姿も似合うし、バルコニーでお風呂あがりにビール缶傾けてて薄着だと風邪引くだろって男子高校生らしく胸元に目が行くのを抑えつつさりげなく上着かけるのも似合うじゃないですか」
「なんか既視感あるなって思ったら、名前さんそれ今話題沸騰で重版されてる少女漫画でしょ?」
「そうです! なんで御手洗さんご存知なんですか?」
「お姉ちゃんの部屋で読んだ!」
「なるほど!」
「どうしてそんな話を?」
「実は……」

 ぺろん、とデスクの上の紙を彼らに向ける。先ほど事務所宛に届いたものだ。

「え、ドラマ化するの?」
「そうなんですよ! オーディションの案内が来ていて、うちの事務所だとどなたが適任かな、と思ったらぱっと思いついたのが天ヶ瀬さんでして」

 正直めちゃくちゃ見たい。彼が料理が得意というのは誌面ではそこそこ言っているものの、実際テレビでそう言った企画をするという機会があまり無かった。私の営業がまだまだ足りないということなのだけれど、ドラマでそう言った役が来れば、お料理番組に出演する回数も増えるし、そうなれば天ヶ瀬さんが腕を振るう姿も合法的に見れてしまうわけだし、いやもうファンにとっても最高すぎると思う。

「天ヶ瀬さん……」
「そんな目で見るなよ……」
「原作もお料理がメインのコメディで、同居している男の子は他人の好意に鈍感かつピュアな心の持ち主で、キスシーンもやっぱむり、って崩れ落ちるぐらいの子で、何よりこのドラマの監督はストーリーは原作通りに、演出を工夫することで大変有名な方なので、キャラ変更なんてされないと思いますし、」
「分かったから! 受けるからには絶対受かるから心しておけよな、プロデューサー!」

 なんとも頼もしいお言葉である。意気揚々の彼に、原作の漫画を全巻貸し付ける約束をした。







20185021

top