欲を言えば/伊瀬谷四季


 事務所のアルバムも随分増えてきた。テレビの横にある棚に整頓されて置かれたアルバムは、名前ちゃんや賢っちが、事務所に所属している皆の仕事中の姿や移動中の姿、仕事合間の姿を撮ったものだ。日付とどこで撮ったか、一枚一枚マメに書いてある。それを見た事務所の皆が、透明なビニールの上から、ペイントマーカーで皆あちこちコメントを書いている。名前ちゃんに言えば、データを貰える。だけどこうやって手にとって写真を見ることが出来るのも良いなって思う。だってそれって、オレたちがこの事務所に居る分だけ積もり積もるってことだ。分厚いアルバムが1冊増えるごとに、アイドルしてて良かったなって思うし、皆と出会えて良かったって思う。

「──おつかれ! っ、す……?」

 デスクに名前ちゃんが居ない。寝てるのかな、と思いながら、ドアを静かに閉めてソファの正面に行って覗き見る。すると名前ちゃんが丸まって眠っていた。
 すう、という寝息。瞼を閉じる名前ちゃんの顔はオレたちと変わんないぐらいの年齢に見えた。俗に言うあどけない表情で眠っている、というやつだ。ぱさぱさとした睫毛は、くるんと上に向いていて、姉ちゃんがよく言ってる、マスカラダマになるんだよねと愚痴る意味が分かった。睫毛の上の方に球がぽつんとついている。茶色いアイライナーが目尻にそって引かれているのもばっちり見えた。
 あんまり気にしてなかったけど、ソファに横になって眠れるってことは名前ちゃん身長高くないんだなってことだったり、化粧しながら眠ると肌に悪いのに名前ちゃんそのまんまなんだってことだったり、何か色々考えが巡っていく。

「──四季近い」
「うぐっ」

 名前ちゃんががしっとオレの顔を掴んだ。

「アイドルの顔なのにー!」
「人の寝顔じろじろ見てる方が悪いでしょうが! 最近の高校生こっわ! 距離感考えて?!」
「いやー、だって名前ちゃんの顔可愛いなって」
「何の前触れも無く口説くの止めていただけます?!」

 ほら離れて離れて、としっしっと名前ちゃんが手を払う。ひどいっす〜、と泣きつくけど、女性の顔を至近距離で見る方が酷いよ、とマジレスされた。

「は〜もう全然眠った気しない」
「名前ちゃんいつから寝てたんすか?」
「3時半くらい。まだ30分くらいしか仮眠してないからね? 四季顔覗くから起きちゃうし」
「え〜だって〜 名前ちゃん眠ってるの珍しいなって」
「だめだめ。ただでさえ顔がいい人たちに囲まれて内心しんどいのに寝顔まで見られたら死んじゃうほんと意識してない時に見られる顔はブス極めてるからやめて」
「今度は起こさないように見るっすね」
「そういうことじゃないからね?」

 この感じだとフォルダに隠れて撮ってる名前ちゃんの写真があることバレたらやばそう。今の写真も撮ってたらたぶん今までの全部没収されてたなって思ってひやっとした。








20180801

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