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「あっ、花びら」
「えっどこ」
買ったばかりのいちご飴を舐めながら、彼のその言葉に彼の方を向けば、ぱしゃりと写真が撮られた音。それにえっ、と疑問の声を上げれば、彼が微笑みながら、可愛かったからつい……、と。
桜の開花予報が出されたのはここ一週間ほどのこと。ニュースでは桜前線、とこの話題で持ちきりだった。休みの日に一緒に見に行こうと約束をして、今日近くの公園に足を運んだのだ。花は満開で、風が一つ吹くと桜吹雪となって降り注いでくる。視界が淡い桃色に覆われて、春のぽかぽかとした陽気も相まって心地よい。公園は多くの人々でにぎわいを見せており、屋台がずらりと並んでいる。桜を愛でながら、二人で歩いていたときのことだった。
「ねえハルトさん! 今の私絶対顔だめだから! 消そう!」
「そんなこと無いよ。君はいつ見ても可愛いなあって思うし」
「それハルトさんの主観的な話だから! 客観的に見て!」
「君は、俺に可愛いって思われて嬉しくない……?」
「嬉しいけども……! 違うの、揚げ足をとろうとするのやめて?」
私は彼のスマートフォンを何とか取り上げようとするけれど、彼の高い身長と長い手足のせいで取れない。私が手を伸ばしても、彼がすぐに手を違う方向にやるのだ。今彼からスマートフォンを取るのは無理だと流石に悟った。大変申し訳ないというか罪悪感が残るけれど、彼がお風呂に入っている時にでも消してしまおう……。彼のスマートフォンのパスワードの番号は私の誕生日であることは、私に完全に知られている。というのも私が盗み見たわけじゃなくて、彼が「まったく知らない人に勝手に個人情報を知られたらいやだから設定しているだけで、君を含めて知っている人に見られる分には気にしないから」と言っていて、パスワードについても平然と教えてくれたのである。とんだセキュリティの甘さだ。かくいう私も、パスワードが彼の誕生日であることは彼に知られているからおあいこだ。
「あとで消そうって思った?」
「うん。ハルトさんがお風呂入っているときに」
「素直でいいけど、鍵付きのフォルダーに入れたから無理だと思うよ」
「……そのフォルダーのパスワードは?」
「君の主観的な身長」
「ねえ、ハルトさん気持ち悪い」