4/28あのね、
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4月24日 ねごと会話
寝言とは会話してはいけない、という話を聞いたことがある。寝言と会話するとその人が死んでしまうからだとか、眠っている時は黄泉の世界に行っているため、その最中に何かするとこちらに戻ってこられなくなるからという言い伝えがあるからだ、とかさまざまあるけれど。一番有力なのは、眠っている間に寝言を言うときは眠りが非常に浅いため、そのまま会話をすると脳が活動して睡眠の質が悪くなる、という説だろう。そもそも彼とは一緒に、ほぼ同じタイミングで眠るわけだしそんな寝言を聞く機会なんて無いだろうと思っていたのだけど。これが意外とあるのである。
ぱちりと突然目が覚めた。辺りを見るけれど、まだ日が昇っている気配もしない。どうやら早く起きすぎてしまったみたいだ。もうひと眠りしよう、と布団にもぐりこむと、彼が動いたのが感じた。ん、と呻きながら寝返りを打つ。
「ん、……みず」
普段よりも幾分か低い声だ。彼の寝言を聞いたのは久しぶりだった。
こうやって一緒に眠るようになってハルトさんの寝言を聞く機会は何度かあったけれど、私が隣で聞いていて一番感じるのは、突拍子のないことを言わないので、起きていると思ってしまうことだと思う。あとたまに英語や他のよく分からない言語が混じる。もちろん朝になるとハルトさんは覚えていない。
仮眠をソファでとると言って、眠っていた時に聞いたのが始まりだった。その時は普通に起きているものだと思って受け答えしていたら、実は眠っていたという。彼に言われるがまま、部屋からメモ用紙を持ってきて渡そうとすれば、穏やかな寝息が聞こえて驚いたのも鮮やかに記憶に残っている。
「のど、くるしい……」
どうやらうなされているらしい。水が無くて喉が渇いている夢でも見ているのかな。私は水だよ、と問答すると、彼の消え入るようなありがとう、と言う声が聞こえた。これも朝起きたら覚えていないんだろうな、と思いながら私も再び眠りにつく。
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ゴールデンウィークが始まって周囲の人も浮足立っている気がする。中日を休みにすれば最大九連休。私はそれは叶わなかったけれど、彼の方はちゃっかりと九連休にしたらしい。本当に羨ましい限りである。
前半は家でゆっくりと過ごすことに決めている。休み中に食べるものを買いに、彼とスーパーに来ている。やはりみんな考えることは同じなのかスーパーの中も混みあっている。大体の食材を買い終え、さあレジに行こうとカートを押そうとしたところでハルトさんが居ないことに気が付いた。さっきお酒を一緒に見ていた時は確かにいたはずだよね、私は首を傾げながら周囲を見渡す。身長も高くてお顔も麗しいのですぐに見つかりそうだけれど。辺りを右往左往する。
とりあえずレジでお会計してから電話で呼び出そう、と諦めた時だった。子供用のお菓子売り場。小さなアスレチックなどがあるそこで小さな子供たちが遊んでいたり、歩き回っていたりする。その中で窮屈そうに高い背をかがませて、半ば体育座りのような姿勢でお菓子コーナーを物色する成人男性が一人。彼は、あっと声を上げた私の存在に気が付いたらしく、手に何かを持ってこちらに向かってくる。
「……これ、買ってください」
妙にこそこそと小さな声でそうお願いしてくるのは、いい大人になって子供用のお菓子を買うのが恥ずかしいからなのか、それとも勝手に離れていったことに罪悪感があるのか、どちらかは分からないけれど。
彼の手に二つ握られていたのは、私も小さい頃によく遊んで食べた知育菓子だった。グレープ味のアルカリ性と酸性に反応して色が変わるのを楽しむお菓子。とても懐かしい。
「ねるねる、したくて……」
君と、と付け足すように彼が言った言葉に思わず笑ってしまう。ハルトさんがこんなにも可愛い。もうなんか自慢したい。私はいいよ、と快諾して、だけど、と言う。
「勝手にどこか行かないでね。探すの大変なんだから」
「はい……」
まるでお母さんに怒られてしょぼくれる子供だ。周囲に居た小さな子供たちから、怒られてる!、と笑われて、彼がまたしょんぼりした。
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