4/11宝石みたいな瞳だね


 彼の青い瞳を見ていると、その目に吸い込まれそうになる時がある。浅瀬の海の色をしている。私とは違う色だ。目の色ごとに眺めている世界が違くなるだなんて話は聞いたことが無いけれど、彼の目に反射する世界を見ると、彼が見ている世界は私が見ているそれより、ずっと綺麗なんじゃないかな、と思ってしまう。
「ハルトさんの目って綺麗だよね」
 テーブルに向かい合って、次の連休の計画を立てている時だった。地図を真ん中に広げながら、ここらへんがいいかも、ここに寄りたい、と話し合っている時にまさかそんなことを言われると思わなかったのだろう。彼はびっくりしたようで目を少し見開いて、だけれどそれもすぐに普段通りに戻る。
「そうかな」
「うん。隣で歩いていてこんなに目が綺麗だと、見ている景色も違うんじゃないかなって思う時ある」
「君ってたまに詩人みたいなこと言うよね」
 彼が私の目をじっと見る。彼の目の中に私が映っている。テーブルに肘をつけて、ハルトさんを真っすぐに見る私の姿だ。彼の目を介して自分を見ると、いつもの自分とはどこか違うような気がする。
「俺は君の目も素敵だと思う。君から見つめられると心臓が跳ねて、でもほっと安心することもある。あと君の目に映った自分を見ていると、君と居る時はこんな表情をしているんだって」
「ちょっと照れる。私と居る時のハルトさんは、私が居ない時のハルトさんと何か違うの?」
「うーん、……三割増しぐらい穏やかな表情をしているような気がする」
 逆にそうではない彼も見てみたいと思ってしまった。そう彼に言えば難しいんじゃないかな、という返答。二人一緒に居ない時間の方が少ないのに加えて、どうやってその姿を捉えれば良いのだろうという話である。私が居ない時に写真を誰かに撮って貰う?、と意地悪に言えば、君に送るって思ったら自然と口角が上がってしまう……、と彼が呟いた。彼の険しい表情を見るのはなかなかに難航しそうだ。

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